講師紹介 伊藤とく美 岩谷学園テクノビジネス専門学校日本語科主任教員
『日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現』共著者

今回は、中級レベルの学習者のクラスの授業について、実際に『日本語上級話者への道』を使ってどのように授業を行ったらよいか考えていきます。

1.中級レベルの学習者にできること
多様なコミュニケーションタスクや社会生活上の状況において簡単に自分のことが話せる。質問したり答えたりできるし、自分の経歴や余暇の過ごし方のような身近な必要を越えたことについても会話に参加できる。

上級話者にできること
文を円滑につなぎ合わせてある程度詳しく叙述したり、描写したりすること、一般的な語彙をつかって事実を伝えたり、そのときの社会一般の関心事や個人的な話題について気軽に話すことができる。

2.上級話者になるための具体的な目標
『日本語上級話者への道』では、各課に上級話者になるための目標が設定してあります。その目標を一つ一つ達成する事によって上級話者になっていきます。

1 コミュニケーションの機能上の目標:詳しい説明や描写、叙述ができる。
2 ストラテジー・談話構成・文法上の目標:場面や話題に応じた話し方、進め方ができる。
3 よい人間関係を育て、維持していくコミュニケーション上の目標:よい聞き手、話し手としての意識化。

3.教科書を使った授業の進め方
『日本語上級話者への道』は全12課構成です。
各課は以下のように進みます。

今回は4課「町の様子を話そう」を例に話を進めます。

4課の学習目標は

1.話の構成を考えて話題ごとに話す。

2.大勢の前で発表する場合の話し方を学ぶ。

3.相手の話に関心を持って聞いていることを示す。

です。

(1)テーマについて考える、話す
●さあ始めよう
「さあ始めよう」ではテーマについて思い出したり考えたりします。
各課のテーマについてどの程度話せるのか、まず話してもらいます。
全体に問いかけて話してもらったりペアで話し合ったりします。
話す内容や話し方について以下の点に注意します。

・詳しく説明・描写ができているか。
・構成や語彙表現の使い方はどうか。
・コミュニケーションスキルについて適切であるかどうか。


第4課「町の様子を話そう」の場合

教師
友だちのふるさとはどんなところだと思いますか。友だちの出身地を聞いて想像して話してみましょう。ペアで話した後、クラスで発表してもらいます。

タン
リンさんのふるさとは上海です。高いビルがたくさん並んでいてにぎやかな町です。若者のファッションも現代的でおいしい食べ物もたくさんあります。世界の人が観光に来ます。有名なものは上海ガニです。上海万博も開かれました。

教師
はい、タンさんありがとう。リンさん、あなたのふるさとの説明はどうでしたか。

リン
だいたいいいですけど、人口とか、有名なところとか、経済のことも話したいです。

教師
ああ、そうですね。人口、名所、産業などについて加えるといいですね。他の皆さん、リンさんのふるさとについてもっと知りたいことがありますか。


リンさんの好きな場所やお勧めのところを知りたいです。

教師
では、リンさん、あなたのふるさとについて崔さんの知りたいことも加えて話してください。

(2)構成について考える
話してもらった後、わかりやすかったかどうか聞いてみます。話す内容について思いついたまま次々に話すとわかりにくくなることがあります。「何をどんな順序で」のところを見て構成について全員で確認します。

●何をどんな順序で

何をどのように話すとわかりやすくなるか、問題を解きながら実際に話してみてその違いを確認するといいでしょう。

(3)語彙や表現を増やす
中級レベルの学習者は、語彙の不足や表現を知らないためにわかりにくかったり回りくどくなったりします。詳しい説明や描写に必要なふさわしい語彙や表現の練習が必要です。

●どんなことばで


1.~5.についてまず説明してもらい、次に適切な語彙や表現を練習します。

1.町の位置
私の町は中国の東にあります。そばに海があります。
→ 上海は中国の東にあって海に面しています。

2.人口
人口は約2200万人です。
→ 人口は2010年2月現在で2221万人です。

3.気候
日本とだいたい同じです。四季があって暖かくて雨も多いです。
→ 温暖湿潤気候です。年間平均気温は16度ぐらいで、冬は寒くて雪が降ることもあります。

4.産業・有名なものなどの特徴
世界の会社が集まっていて、銀行も多いし、中国で一番商売も盛んです。
→ 中国最大の経済都市として知られています。

5.経験や思い出
子供のとき、両親と一緒に何回も上海動物園へ行きました。
→ 子供のころは、よく上海動物園に連れて行ってもらいました。

●どんなことばで 1の2)
まずは選択肢を見ずに説明し、次に選択肢を見て適当な語彙や表現を練習します。

教師
1のイラストについて説明してみましょう。

タンさん
高い山がたくさんあります。山ばかりです。

教師
そうですね。では、下の四角の中から適当なものを選んでみてください。

インさん
「山々が連なっている」です。

教師
そうですね。山が続いている様子を「連なっている」といいます。


新しい高いビルがたくさん並んでいる町
→  高いビルは「高層ビル」、たくさん立って並んでいるを「立ち並んでいる」、
新しいは「近代的」というといいですね。

知っている簡単な語彙を説明に適した言葉に変える練習をして語彙を増やしましょう。

さらに適切な語彙を増やすために3)で説明します。

①特別に変わったものがない町  → c 何の変哲もない町
②昔と同じような感じがする町   → e 昔ながらの雰囲気の町

(4)どのようにわかりやすく話すか
次に「やってみよう1」でふるさとについてのメモを作ります。その後、友だちにふるさとの紹介をします。
「何をどんな順序で」で確認した構成や「どんなことばで」で習った言葉を使って紹介文を考えましょう。聞いている人は友だちが話した内容についてメモをとり、聞いた後で感想や興味を持ったことを伝えましょう。

(5)中級レベルの授業
①時間の使い方の目安

さあ始めよう         5~10分

何をどんな順序で      10~20分

Step.1 どんなことばで1 20~30分

やってみよう1        15分

Step.2 どんなことばで2 15分

やってみよう2        20分

中級レベルのクラスでは、「やってみよう1」までと「やってみよう2」を2回に分けて練習することもできます。

②テキストの使い方
まず本日のテーマについて伝え、「さあ始めよう」を見ながらテーマの内容を思い出します。ペアになってやったり全体で話したりします。構成を確認して必要な語彙や表現を練習して、やってみよう1から2へと進みます。

③フィードバック
発表した学生に対する感想やコメントなどをどう伝えたらよいのでしょうか。
いいところはたくさん伝えましょう。間違いの指摘や評価的なコメントは受け入れにくいものですから、「こうするともっとよくなる」といった感想を伝えるように心がけましょう。