元東京日本語学校(長沼スクール)
日本語講師 神部秀夫
 『みんなの日本語 初級』を使用している皆様に本稿でお話ししたいのは大きく次の二つです。

『みんなの日本語 初級』修了時点で学習者ができること
 1課から50課までの各課の文型、文法の教え方などは、『教え方の手引き』をはじめ、参考になるものは少なくありません。しかし、『みんなの日本語 初級Ⅰ』(以下、『初級Ⅰ』)、『みんなの日本語 初級Ⅱ』(以下、『初級Ⅱ』)がそれぞれ修了した時点を一つの区切りとして、それまでに習った文型、文法、語彙などをフル活用することによって、学習者は「何ができるのか」「何ができなければならないのか」といったものを示した指標、具体例はほとんど見かけません。そこで『みんなの日本語初級』を、『初級Ⅰ 本冊』の「1課から25課まで」と『初級Ⅱ 本冊』 の「(25課までを含む)26課から50課まで」との2段階に分けて、それぞれの時点でこれらを考えて例示したいと思いました。ポイントは「既習の文型、語彙を組み合わせて使う」「修了時点までの文型、文法をできるだけ多く取り入れる」ということです。例示するものは、復習教材の一助にもなると思いますし、到達度試験としての会話テストの参考などにもなるかと思います。

「日本語教育の参照枠」と『みんなの日本語 初級』
 もう一つは、「日本語教育の参照枠」(以下、「参照枠」)と『みんなの日本語 初級』との関係についてです。令和3年10月に「参照枠」が文化庁より明示されてから、教師はそれにどう対応するのかが日本語教育の現場で問われています。『みんなの日本語』を使用する教師は、「参照枠」をどう捉えていけばよいのか、現場で学習者にどのように教えたらよいのかを考えてみたいと思います。

▶既習の文型、文法を組み合わせることの有効性
 まず、一つ目の『みんなの日本語 初級』Ⅰ、Ⅱの修了時点で「学習者ができること」についてお話しします。次の二つの文を見てください(以下、「課」は『みんなの日本語 初級』の各課を指します)。

・ 息子は先週退院したばかりなので、まだスポーツができません。(46課[練習B6 例])
・ 先週給料をもらったばかりなのに、もう使ってしまいました。 (46課[練習B7 例])

 「彼は3月に大学を卒業したばかりです。」(46課[文型2])のように、46課では、「〈Vた形〉ばかり」を学習項目の一つとして習います。つまり、「〈Vた形〉ばかり」は46課の新出文型です。その46課の[練習B]では、先に見たように新出文型の「〈Vた形〉ばかり」と、既習文型の「ので(39課)」、「のに(45課)」とを組み合わせた練習が提示されています。

・ さっき昼ごはんを食べたばかりなので、おなかがいっぱいです。
・ さっき昼ごはんを食べたばかりなのに、もうおなかがすきました。

 「〈Vた形〉ばかりなので…」と「〈Vた形〉ばかりなのに…」とでは、後に続く文が全く違ってきます。それを考えて文を作ることで、新出文型の「〈Vた形〉ばかり」の意味理解も深まりますし、また既習の「ので」「のに」の使い方も復習できて定着が図れます。繰り返しですが、新出文型の意味や機能を理解したうえで運用する、そして既習の文型の復習も兼ねて定着を図るという大変効果的な練習例です。もう一つ例を出します。

テレーザちゃんは何になりたいですか。
……医者になりたいです。       (19課[例文7])

 「〈イ形容詞〉くなります/〈ナ形容詞・名詞〉になります」は、19課の新出文型の一つです。「~になりたいです」は、19課の新出文型「~になります」と、13課で習った既習文型「~たいです」とを組み合わせたもので、これも新出文型と既習文型を組み合わせて定着を図る大変効果的な例だといえます。
 今『みんなの日本語 初級 本冊』の中から例を二つ提示しました。皆さんにお話ししたいのは、『みんなの日本語 初級 本冊』に載っていなくても、こうした例をご自身で考えて現場でやってみましょうということです。例えば、先の「~になりたいです」についても、『初級Ⅰ』(25課まで)の修了時点なら次のように練習できます。

シンさんは何になりたいですか。
……エンジニアになりたいです。    (19課の時点)
……車を作るエンジニアになりたいです。(25課の時点)

 19課の時点では、単に「エンジニアになりたいです」としか言えませんでしたが、22課で名詞修飾節を習いますから、『初級Ⅰ』が修了した時点では、「何のエンジニアになりたいのか」、「車を作るエンジニアになりたいです」と言うことができます。また教師として、『初級Ⅰ』の修了時の段階では、そこまで言えるよう指導していくことが望まれます。それが文型積み上げ方式というものです。
 各課ではそれぞれの新出文型や文法を教えていくと思いますが、その課だけに限定された「輪切り」だけのような練習になってしまっては、不十分ですし、もったいないです。学習者との「やり取り」の中で、それまでに習った文型や文法を組み合わせたり、できるだけ習った文型や語彙を盛り込んだりすることによって、より厚みのある練習ができます。そうすることで定着を図るのがより良い方法だと思います(イメージ図をご覧ください)。

既習の言葉(動詞、形容詞、名詞など)をできるだけ盛り込むことが大切です。教師が使わないと、学生も使わない。→忘れる!

例えば、18課を教えるときは、18課だけでなく、既習の17課までの文型や語彙を意識して授業を組み立てることが大切です。18課だけの「輪切り」にならないようにします。

実際にお考えいただくための参考例を、いくつか提示してみます。

【例1】食べ物について話す

『初級Ⅰ』修了時点 
T: おすしを食べたことがありますか。(19課)
S: はい、あります。おいしかったです。
T: では、おすしを作ったことがありますか
S: いいえ、ありません。
T: 作りたいですか。私はおすしを作ることができます。(18課)
S: そうですか。おすしの作り方を教えてください。(14課)

『初級Ⅱ』修了時点 
T: いろいろなおすしがありますね。何が好きですか。
S: まぐろやサーモンが好きです。
T: しょうゆをつけますか。
S: はい、しょうゆをつけて食べます。(34課)
T: たまごのおすしも好きですか。
S: はい、好きです。
T: しょうゆをつけて食べますか
S: いいえ、何もつけないで食べます。(34課)

 19課で経験の有無を問う文型を習います。授業では単に一問一答に終わらず、できるだけ「やり取り」を続けたいものです。「食べたことがあるか」だけではなく、「作ったことがあるか」を聞いて、14課の「作り方」を引き出しています。
 『初級Ⅱ』の修了時点では、34課[練習A3]を使いながら話を展開することができます。また、『初級Ⅰ』の修了時点では、「作りたいです」となりますが、『初級Ⅱ』の修了時点では、40課[練習A3]の「経験がない、初めてやる」意味を持つ「~てみます」を使って、「(おすしを作ったことがありません)。作ってみたいです。」と言わせるよう指導したいです。1課から50課まで多くの文型がありますが、一つひとつの文型が既習か未習かを常に頭に入れておくおことが大切です。

【例2】休みの許可を得る

『初級Ⅰ』修了時点 
S: すみません、明日休んでもいいですか。(15課)
T: ええ、いいですよ。どうしましたか。
S: 明日、国から両親が来ます。空港迎えに行きたいです。(13課)
T: そうですか。わかりました。

『初級Ⅱ』修了時点 
S: 先生、ちょっとお願いがあるんですが……。(48課[練習C3])
T: はい、何ですか。
① S: 明日休ませていただけませんか。(48課)
  T: どうしてですか。
  S: 明日国から両親が来ます。空港迎えに行きたいです。 (13課)
② S: 明日両親を迎えに行くので、休ませていただけませんか。(39課、48課)
③ S: 明日空港へ両親を迎えに行かなければならないので、休ませていただけませんか。(17課、39課、48課)

 『初級Ⅰ』の段階では、「明日休みたいです」「明日休んでもいいですか」のように、日本語の表現として少しこなれていない言い方になってしまいますが、いたしかたありません。『初級Ⅱ』の段階では、48課[練習A6]を使うのが適切です。そして話の切り出しとして「ちょっとお願いがあるんですが…」と48課[練習C3]で示された言い方を使っています。許可を得るとき、依頼するときに、相手に初めにどんな言葉をかけたらよいかは難しいものです。それも含めて教えたいです。「もしもし、田中ですが、今いいですか」(46課[例文1])なども話し始めるときの表現の一つです。こうした言い方は、[練習A][練習B]にはほとんど出てきません。各課の[例文][練習C]についてもよく見ておいて、使える表現はぜひ取り入れて練習していただきたいです。
 また①、②、③と、順に文型の組み合わせが多くなっている文を示しました。①では、「~ていただけませんか」と、48課の新出文型のみを使っています。そして休む理由を相手に聞かれてから答えています。②では、「ので」を使って、理由も含めて許可を得るために話しています。③では、その理由が本人にとって大切であることを言いたいので17課の「~なければならない」を組み合わせています。実際の場面では、①、②、③のどれでもよいのですが、50課を修了した時点では、③のレベルまで話そうと思えば話すことができることをお伝えしたくて提示しました。主に留学生を対象に教えている私の経験をもとにして言えば、全ての学習者が③までの言い方ができるとは申しません。しかし、①→②→③とステップを踏んでいけば、かなりの学生が③まで話せるようになります。また③まで言えるように一生懸命話そうとします。できるかどうかは別にして、『初級Ⅱ』の修了時点で、教師として学生に③のレベルまで求めることを試みることは必要ではないでしょうか。

【例3】自分の部屋の様子を話す

『初級Ⅰ』修了時点 
私の部屋は、広くて明るいです。駅から遠いですが、家賃は安いです。(8課)毎月25日までに3万円払わなければなりません。(17課)シェアハウスですから、部屋の中にキッチンがありません。ですから、料理を作ることができません。(18課)

『初級Ⅱ』修了時点 
私の部屋の壁映画のポスター貼ってあります。机、窓のそばに置いてあります。(30課)机の上に恋人にもらった人形が飾ってあります。冷蔵庫の中にいつもりんごジュースが入っています。(29課)

 まず、8課や16課での形容詞を接続する文型を使っています。そして25課まで修了していれば、それだけで終わらせてはいけないと思います。家賃や設備のことを聞いて、17課[例文5]の「までに」、[例文3]の「なければなりません」、18課[例文4]の「ことができます」などの既習文型も引き出しましょう。そうすることで話が広がります。
 『初級Ⅱ』では、29課[練習A1]の「〈自動詞て形〉います」)、30課[練習A1]の「〈他動詞て形〉あります」などを使って表現しています。そして、「机の上に恋人にもらった人形が飾ってあります」と、連体修飾も使っています。学習者が「机の上に人形が飾ってあります」と言ったら、「いいですね。その人形はもらいましたか。買いましたか。」というように、さらに人形を説明する言葉を加えるよう促しましょう。それが教師の役割だと思います。名詞を文全体の前のほうから説明する日本語の連体修飾は、なかなか定着しないものです。22課で教えたあとは、常に意識して学習者に使わせるよう授業では心がけましょう。

【例4】自己紹介をする

『初級Ⅰ』修了時点 
初めまして、グアンです。ベトナムから来ました。どうぞよろしくお願いします。趣味はサッカーをすることです。(18課)日本へ来てから、あまりサッカーをする時間がありません。(16課、22課)家族は父と母と姉と弟の5人です。父は野菜を作っています母はレストランで働いています。(15課)

『初級Ⅱ』修了時点 
友達とサッカーをするのは、本当に楽しいです。(38課)今、大学に入るために日本語を勉強しています。(42課)今は、まだ日本語のニュースが読めません。早く読めるようになりたいです。(36課)

 『初級Ⅰ』では、18課[練習A4]の「趣味は、~ことです」、16課[練習A2]の「~てから」、22課[練習A6]の「~時間がありません」、15課[練習A4]の「~ています」などを使っています。これだけでも立派な自己紹介といえるでしょう。言い換えれば、『初級Ⅰ』の修了時点では、少なくともこれくらいは話せるよう指導することが必要です。
 『初級Ⅱ』では、さらに詳しく38課[練習B1]の「のは、~です」、42課[練習A1]の「~ために」、36課[練習B4]の「~ようになりたいです」も使うようにします。繰り返しですが、『初級Ⅱ』修了時点の指導では、それまでに習った文型や文法をできるだけ使わせるようにしていきましょう。しかし、学習者は自分からはなかなかそれができません。ですから、「何のために日本語を勉強していますか」「何ができるようになりたいですか」などと質問しながら、まとまりのある「発表」ができるように導いていきます。学習者が持っている力を最大限引き出すことが教師の役割です。

【例5】家族のことを話す

『初級Ⅰ』修了時点 
T: ご主人はどんな人ですか。
S: 背が高く、ハンサムです。料理が上手です。(16課)

『初級Ⅱ』修了時点 
T: ご主人はどんな人ですか。いい人ですか。
S: ええ。背が高くてハンサムだ、やさしいそれにイタリア料理を作るのが上手なんです。(26課、28課)
T: とてもいいご主人ですね。
S: ええ、でも、帰る時間がもう少し早けれもっといいと思います。(35課)

 『初級Ⅰ』と『初級Ⅱ』の修了時では、質問が同じでも答え方がこのようにかわってきます。もう一つここでお伝えしたいのは、先ほど少し触れた各課の[例文]、[練習C]をもとにして練習するやり方です。これらには発話のヒントになるものが多くあります。例えば次の[例文]を見てください。

日本の生活はどうですか。
……とても便利です。でももう少し物価が安けれもっといいと思います。(35課[例文3])

 お気づきのように、『初級Ⅱ』の最後の「でも、帰る時間がもう少し早ければ、もっといいと思います。」は、35課[例文3]を応用したものです。
 各課の1ページ目の[文型]の下には、[例文]がいくつも載っています。それを土台にして学習者の個別状況や話題に合わせて使っていくのも『みんなの日本語 初級』の効果的な活用方法です。
 『みんなの日本語 初級』では、[文型]と[練習A]にばかり注目が集まりがちですが、[例文]と[練習C]の中にも大切な表現や文型が含まれていますので見逃さないようにしましょう。

▶「参照枠」と『みんなの日本語』
 ここで二つ目の「参照枠」と『みんなの日本語』について述べていきたいと思います。こんなことが言われています。

・『みんなの日本語 初級』を使っていても、「参照枠」に対応した授業はできないのではないか。
・「参照枠」には、『「できること」に注目する』とある。『みんなの日本語』には、Can doという項目が入っていないから使うことに抵抗がある。

 しかし、これらは誤解といってもよいです。『みんなの日本語 初級』を使って「参照枠」に対応した授業は十分できますし、Can doについても心配しなくても大丈夫です。その理由は、「参照枠」で示されたA2、A1レベルのCan doは、『みんなの日本語 本冊』の中に、全てと言ってよいほど含まれているからです。その実例として「参照枠」の中から、「話すこと(やり取り)」を取り上げ、「基礎段階の使用者」のレベルであるA2、A1のCan doとしてどんなものがあるのか、そして、『みんなの日本語 初級』がそのCan doにどう対応しているのかを「→」で示します。

■A2(6)【会話】
 挨拶、別れ、紹介、感謝などの社会的関係を確立することができる
 → 25課[会話]ミラーさんが転勤の挨拶をする
■A1(4)【会話】
 紹介や基本的な挨拶、いとまごいの表現を使うことができる
 → 7課、8課[会話]訪問と辞去の場面
■A2(46)【インタビューすること、インタビューを受けること】
 インタビューで簡単な質問に答えたり、簡単な意見表明をしたりすることができる
 → 36課[会話]健康についての番組でテレビのインタビューを受ける
■A2(19)【非公式の議論(友人との)】
 何をしたいのか、どこへ行くのかを話して、会う約束をすることができる
 → 31課[練習C3]夏休みの計画を話す
■A2(37)【情報の交換】
 習慣や日常の仕事について質問し、答えることができる
 → 28課[例文3、4]仕事や休日について話す

 いかがでしょうか。特に目新しい課題とかこんな場面は想定したことがないなどということはないと思います。Can doの記載はレベル別に大変数が多く、細分化されています。しかし、『みんなの日本語初級』を使用している教師にとっては、「このCan doは、この課のこの箇所をもとに使えばよい」とすぐ分かるはずです。
 もう一つ大切なことは参照枠の捉え方です。「買い物をする」「行き先までの乗り方を聞く」「職場で上司の指示を受ける」などのように、Can doを、「学習者が遭遇する困難な場面に対応する」「学習者が乗り越えたい課題をクリアする」といった「課題達成型」だけに限定して考えないほうがいいです。
 「参照枠」の言語教育観では、「日本語学習者を単に『言語を学ぶ者』ではなく、『新たに学んだ言語を用いて社会に参加し、より良い人生を歩もうとする社会的存在』」と捉えています。「買い物ができる」「誘う、断る」などのタスク、機能別の課題も、もちろん大切ですが、「普段接する人とのお付き合いがきちんとできる」「社会生活を送るうえで近隣の住民、職場、学校などの友人、知人と友好的な関係を築く」ための言語活動も「参照枠」の理念に基づくものと考えられます。それらは、「おしゃべり」「雑談」といったものに近いかもしれません。自分の習慣を述べたり、職場での様子を話したり、家族の紹介をしたり、ときには家族についての愚痴をこぼしたりなど。そうした会話を重ねることによって「社会的な人との付き合い」は深まっていくのではないでしょうか。
 『みんなの日本語初級』の執筆協力者の田中よね先生は、こうしたやり取りをある講座で「交流会話(人との関係を温めるおしゃべり)」と言っていましたが、こうした談話能力を身につけることも「参照枠」を参照して日本語教育を実践することと言えます。
 整理すると、「参照枠」のCan doについては、「課題達成型」もあれば、「人との関係を温めるおしゃべり」の型もあり、また両者を兼ねたものもあると考えてください。
 本稿の前半で『初級Ⅰ』修了時点、『初級Ⅱ』修了時点での会話例を五つ提示しました。【例2】の「休みの許可を得る」は「課題達成型」と言えましょう。また【例1】【例3】【例5】は、「社会的に人との交流がきちんとできる、人との関係を築くための言語活動(おしゃべりや雑談)」の例として捉えてよいかと思います。【例4】の「自己紹介をする」は両方を兼ねていると言えます。つまり、『みんなの日本語』は「参照枠」のCan doについて「課題達成型」にも、また「人との関係を温めるおしゃべり」の型のどちらにも対応ができるのです。
 ところで、【例5】では、連れ合いのことを聞かれ、いわばのろけているわけですが、最後に愚痴や不満といったものを述べています。こうした会話、やり取りができれば人との付き合いは、よりうまくいくと思います。先にも触れましたが、この文は特に見逃されがちな[例文]を土台にしています。『みんなの日本語』の[例文]には、こうした「人との交流が深まる」ようなヒントとなるもの、すなわち「アイデアの宝船」が多くあります。三つ紹介します。

初めて好きになった人のことを覚えていますか。
……ええ。彼女に初めて会ったのは小学校の教室です。
  彼女は音楽の先生でした。
(38課[例文6])
お見合いはどうでしたか。
……写真を見たときは、すてきな人だと思いましたが、
  会って、がっかりしました。
(39課[例文1])
わたしたちが初めて会ったのはいつか、覚えていますか。
……昔のことなので、もう忘れてしまいました。
(40課[例文3])

 いかがでしょうか。ユーモアもあり、何か心に残る微妙な感情がわくのではないでしょうか。これらを「人との付き合いを深める」「人との関係を温めるおしゃべり」の型のCan doとして学習者とのやり取りの土台に使ってはいかがでしょうか。どのようにアレンジするかは皆さんの腕にかかっています。またそれを準備するのは楽しいのではないでしょうか。

 最後のまとめとして
・『初級Ⅰ』、『初級Ⅱ』、それぞれの修了時点での文型や文法をできるだけ活用した会話例を作ってみてください。
・それには、既習文型を組み合わせたり、既習の文型や語彙をできるだけ盛り込んだりすることが大切です。
・そのやり取りを重ねれば、一問一答には終わらず話が広がりますし、既習文型、新出文型の定着も図れます。
・「参照枠」の個々のCan doについては、「課題達成型」もあれば、「心温まるおしゃべり」の型もあり、また両者を兼ねたものもあると考えて対応しましょう。
・その現場での具体的な対応は『みんなの日本語』で十分できますし、それこそが教師の腕の見せどころです。
・そのためには、各課の[例文][練習C]もよく見ておくことが大切です。

 皆様のご活躍をお祈りします。