講師紹介 伊藤とく美 岩谷学園テクノビジネス専門学校日本語科主任教員
『日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現』共著者
第1回 会話の授業 準備編 中級話者から上級話者になるために―評価のポイント
今回は、会話授業を考える際に必要な点について取り上げます。
まず、
(1)学習者について、今どのような会話能力があるのか、
どんなことができるのか、できないことは何なのかを
評価する必要があります。
次に、
(2)学習者のニーズや学習到達目標がどのようなところにあるかを把握します。
そして、
そのために何を使って、どのように教えていくか、学んでいくかということを考えていきます。
1.学習者のレベル・会話能力の評価
日本語の会話能力の評価について、皆さんはどのようにお考えですか。『日本語上級話者への道』ではACTFL‐OPI(全米外国語協会、日本語能力インタビュー試験)の評価法を使っています。
OPIの評価基準にしたがって評価のポイントを考えていきましょう。
OPIの上級と中級レベルの学習者は以下のようなことができなければなりません。
上級レベル:過去・現在・未来の時制を使って、詳しい描写・叙述ができる。
複雑な状況に対処できる。
中級レベル:質問をしたり、質問に答えたりするという自発性があり、
簡単な対面型の会話が維持できる。
(1)学習者の話の内容
学習者はどんな話題・内容について話すことができますか。
上級レベル:個人的、一般的な興味に関する話題について詳細な説明、描写、
叙述などができる。
中級レベル:サバイバルの状況が処理出来る。
日常的な場面で、身近な話題が扱える。
(2)学習者の発話のまとまり
学習者の発話の量とまとまりはどうですか。
上級レベル:段落を作ってまとまりのある話ができる。
中級レベル:文レベルで、段落にうまくまとめることが難しい。
(3) 文法や語彙の正確さ
文法の正確さや語彙の選び方はどうですか。間違いの程度はどうでしょうか。
上級レベル:よく使われる文法は完全にコントロールでき、
複雑な構文は部分的に使える。
接続詞が適切に使え、基礎語彙がうまく使える。
漢語系抽象語彙は部分的に使える。
中級レベル:高頻度構文は部分的にコントロールでき、
具体的で身近な基礎語彙は使える。
(4)発音の正確さ
発音は聞いてすぐわかりますか。注意して聞かないとわかりにくいですか。
上級レベル:外国人の日本語に慣れていない人にも分かるが、
母語の影響は残っている。
中級レベル:外国人の日本語に慣れている人には分かってもらえるが、
慣れていない人にはわかってもらえないことがある。
(5)社会言語学的能力や言語運用能力、流暢さ
話す相手や場所にふさわしい話し方ができますか。敬語の使い方はどうですか。
上級レベル:主なスピーチレベル(会話や簡単なスピーチ、討論など)ができ、
敬語が部分的に使える。言い換えや相づちの一部ができ、
時々つかえることがあっても、一人でどんどん話せる。
中級レベル:スピーチレベルは常体か敬体のどちらか一つがよく使える。
言い換えや相づちなど成功することは稀である。話はたどたどしく、
一人で話し続けることは難しい。
OPIの研究で、中級から上級になるために中級話者に欠けている点として以下の点が挙げられます。
(1)ある話題について話すとき、どのような内容について
話すことが期待されているかがわかっていないこと
(2)まとまりなく思いつくままに話しているために
何を言いたいのかが伝わりにくいこと
(3)話題に応じた語彙や表現が使えないこと
(4)文法的な問題として自動詞・他動詞の使い分けが不十分であること
学習者の会話能力を評価する具体例
Q:あなたの住んでいる町について詳しく説明してください。
A:・・・私の住んでの町は横浜です。にぎやかで、きれいです。・・・海があります。
店がたくさん、有名なところ・・・山下公園・・ランドマークタワー・・・いいです。
B:ええ、私の住んでいる町は横浜です。海があって、
みなとみらいというきれいな所があります。
・・・ランドマークタワーがあって、周りにホテルや店がたくさんあります。
横浜は国際貿易港として有名で、観光客も大勢来る町です。
中華街や山下公園など観光地が多いです。
日本の首都東京に近くて住みやすい町です。とてもいい所です。
どうぞ一度いらっしゃってください。
Aさんは文レベルで知っていることを並べている中級レベル、Bさんは段落にまとめて説明ができているので上級レベルの発話と評価できます。
2.学習者のニーズ、到達目標
学習者の日本語学習のニーズや到達目標について確認することが大切です。
どんな場面でどんなことができるようになりたいのか、例えば、ビジネス場面で商談をしたいのか、日常生活の日本語が使えるようになりたいのか、就職や進学の面接試験に対応したいのかなど、学習者の話をしっかり聞いていきましょう。
また、どの程度の学習時間が確保できるのか、学習方法についても相談していい学びができるように協力できるといいですね。