城東日本語学校 教務 徳森柚子

○はじめに
私が日本語を教えている日本語学校では、中国や韓国、ネパールなどの主にアジア圏の学生達が、進学や日本語能力試験合格などそれぞれの目標達成を目指し勉強しています。
初級レベルでは基礎文法の定着と4技能(読む・聞く・書く・話す)を身につけるため、教材は『みんなの日本語初級Ⅰ,Ⅱ』を使用し、その後中級への橋渡し教材として『短期集中 初級日本語文法総まとめ ポイント20』を使用しています。中級レベルでは『新完全マスター文法日本語能力試験N2』(以下、『新完全マスター文法N2』)をメイン教材として使用し、約7ヶ月での日本語能力試験N2合格を目指しています。また副教材として『改訂版読むトレーニング基礎編/応用編』『聴くトレーニング基礎編/応用編』など日本留学試験対策用教材も使用しています。

○学習時間
本校では、『新完全マスター文法N2』の第1部を使った授業を1週間に2日、1日2コマ(1コマ45分)で行っています。クラスのレベルによって進む早さも違いますが、文法形式の数で言うと、1日で2~3つずつ、だいたい1週間に1課のペースで導入していきます。
4月入学のクラスなら、翌年7月の日本語能力試験合格を目指し、中級レベルが始まる12月頃から翌年7月の日本語能力試験前までに本書を終了するよう進めます。

○各課の構成
P8~P11  1課

図1(画像クリックで拡大) 図2(画像クリックで拡大)

『新完全マスター文法N2』は、各課に「復習」・「文法形式」・「練習問題」・「課のまとめ問題」の4つで構成されています。「復習」にはその課の文法形式と同じような意味用法の例文が紹介されています。その多くが『みんなの日本語初級』で既習なので、N2の文法形式の導入の前に触れることで、学生の理解が高まります。例えば1課(図1)では「復習」の1つ目の例文に「文法形式」1、2が、2つ目の例文には3~5が対応していますので、それぞれの導入前に触れると効果的です。
「文法形式」と「練習問題」は同数あり、番号が対応しています。課末にあるまとめの問題では、その課の全ての問題を短時間で確認することができます。

○授業の進め方
各課の進め方としては

復習1→文法形式1→練習問題1→文法形式2→練習問題2→復習2→文法形式3→練習3→文法形式4→練習問題4→文法形式5→練習問題5→まとめの問題 という順で進めます。

今回の活用講座では第1課の「文法形式3.~たとたん(に)」、「4.~(か)と思うと」について私の授業の工夫などをご紹介します。

初級教材は絵や図などが多いのですが、中級以降になるとあまり見られなくなります。また、語彙なども急に難しくなるので、中級の文型にも親しみを持ってもらえるように、導入の段階では初級の語彙や絵を使うようにしています。

★文法形式3「~たとたん(に)」

例1)ドアを開けたとたんに、荷物が落ちて来た。

例2)ボタンを押したとたんに爆発した。

まずは絵を見せ、学生達に語彙を出させ、出て来た語彙で導入します。その後『新完全マスター文法N2』の例文を読み、接続の確認や語彙を説明しながら理解させ、接続や「文法的性質の解説」部分を解説して「練習問題」へ移ります。
『新完全マスター文法N2』の1つ目の特徴がこの「練習問題」です。学生が間違えやすい絶妙な問題が多数あり、「文法的性質の解説」をきちんと理解していないとなかなか解けません。「練習問題」を解かせることで、学生がきちんと理解できたかどうか、教師側も確認することができます。

★文法形式4「~(か)と思うと」

例1
例1)さっきご飯を食べ始めたかと思ったら、もう食べ終わった。
例2
例2)息子は家に帰って来たかと思うと、すぐ遊びに行った。

「文法形式」の3と同様、絵を見せ、学生達に語彙を出させ、出て来た語彙で導入します。その後『新完全マスター文法N2』の例文を読み、接続の確認や語彙を説明しながら理解させ、「練習問題」へ移ります。
「練習問題」が終わったら、「文法形式」の3と4の違いを説明します。『新完全マスター文法N2』の特徴の2つ目が似たような使い方の「文法形式」がまとまっていて、同時に導入できる点です。それぞれに提示されている例文を比較し、誘導していくことで学生自身に違いを見つけてもらうことができます。

例えば、「文法形式」3の④の例文にもう一度着目させ、こちらから状況把握のためにいくつか質問します。

私(以下T):僕と彼女はどんな関係?先生と学生?
学生達(以下S):恋人、彼氏と彼女
T:そうですね。じゃ、「走っていきました」はどっち?

S:①
T:じゃ、どうして彼女は走って行ってしまいましたか?
S:悲しいから
T:どうして彼女は悲しい?
S:僕がさようならと言いましたから
T:そうですね、さようならと言われて悲しかったから、走って行ってしまったんですね。

ここまで導いたら、①~③の例文にも着目させます。すると学生は、文法形式3は前件が後件の引き金になっていますが、文法形式4はそうではないという1つの大きな違いに、自分で気づくことができるはずです。

更に、「文法形式」の4のそれぞれの動詞に着目させると②泣く―笑う③片付く―散らかす④暑い―涼しいなど規則性を見つけることができます。

このように、本書は教師がただ説明するのではなく、例文を見比べさせることで学生自身がそれぞれの文法形式の性質や違いを見つけることができるという特徴があります。自分で違いを探したり、考えることはより学生の記憶の定着に繋がります。
文法形式のそれぞれの特徴を理解させたところで最終段階、短文作成をさせてみます。教師が前件か後件のみ提示し、学生に文完成をさせます。

  • その話を聞いたとたん、彼女は                     
  • 窓を開けたとたん、                            
  • 夏休みが始まったかと思ったら、                    
  • 山の天気は変わりやすい。
     さっきまで晴れていたかと思ったら、急に               
  • さっき勉強を始めたかと思うと、                     

日本語能力試験は選択問題ですが、N2の表現には日本留学試験や大学入試などの記述問題に使える表現も多くあるので、時間はかかりますが、必ず短文作成の時間を取るようにしています。