東京三立学院 竹野藍

〇はじめに
当校では、中級以降、各種試験対策の聴解授業を行っていますが、問題点が2点ありました。
1点目は、「メモがなかなか取れない」ことです。受け身になり、漫然と聴解問題に取り組む姿が見られました。
2点目は、「聴解からアウトプットにつなげる能力の育成」です。近年、大学院進学希望者が増加傾向にあるのですが、ゼミなど進学後の場面では、聞いて理解した内容を整理し、自分の意見を伝える能力が求められます。読解内容を要約する訓練は授業で意識的に行っていましたが、聴解授業でも行えないかと考えていました。

そのような状況の中、『アカデミック・ジャパニーズ 聴解』シリーズを授業に活かせるのではないかと考え、シリーズの『中級』『中上級』を通して使用することを前提とし、『中級』では問題点の1点目、「メモを取る」を主眼におき、授業を行いました。

〇対象クラス
クラス(18名)の約半数が大学院進学希望者、うち6名が非漢字圏学習者という編成。『中級を学ぼう 中級中期』を主教材としていました。

〇学習の準備
第1回目の授業の始めに、テキストの課の流れと共に「学習者向け 聴解Can-do」を確認し、到達目標をクラスの共通認識としました。この確認が非常に大切です。教師だけでなく、学習者も進学後を意識することで、やる気が変わります。

学習者向け 聴解Can-do(p.84)

その他、以下のことを行いました。
・別冊スクリプトはテキスト配付時に取り外し、教師管理としました。
・付属CDはテキストと共に学生に配付し、あらかじめ聞いてくることも可としました。
・ページ下の「難しいことば」については意味を調べてくるよう指示しました。

〇本書の1課の構成
【聞く前に】
 イラストと質問を使って、本文の内容を予想させ、聞く準備を行います。
【問題A】
 本文を2回聞いて、全体がつかめているかどうかの○×問題を行います。
【問題B】
 もう一度本文を聞いてから、細かい部分についての質問に答えます。
【問題C】
 整理ノートと構成表の二つのタイプの問題があります。
 ことばの説明やエピソードを語るような本文は整理ノートに、
 論理の展開があり主張したいことがはっきりわかる本文は構成表になっています。
【問題D】
 要約文を書きます。重要部分を意識し、枝葉の部分を捨てる練習です。
【話し合い】
 全体が理解できた後で、関連する内容についてのディスカッションを行います。

〇授業の進め方(50分1コマ1課)

音声を聞いてメモを取る指示をする際に、母国語やひらがなで構わないと強調しました。とにかく手を動かす習慣をつけるためです。

問題Bは学習者にメモからキーワードを拾って発言させ、クラス全体で答えを組み立てました。テキストの狙いに沿って「短くまとめて書く」ことを意識させました。
 
問題Cは、最初、学習者にとって難しかったようです。例えば、第1課の「富士山」の問題C、最初の項目の模範解答は富士山の「特徴」なのですが、学習者からは「様子」「説明」「こと」などが挙がったため、内容をまとめる時によく使われる語彙を教えていきました。ここまでを半コマほどで行い、その後、テーマや内容によって、二通りの授業を展開しました。

パターン①は、要約力をつけることを目的とした授業展開です。パターン②はアウトプットにつなげるための授業展開です。パターン①では問題D(要約)を書いた後、スクリプトを配付、確認しました。
パターン②では、スクリプトを配付し、読解を行った後、ディスカッションをしました。問題Dは翌日までの宿題としました。
実際には、第1課「富士山」、第4課「水族館」、第5課「ゴリラの食事」はパターン①、第2課「信号の話」、第3課「隠れキリシタン」はパターン②というように授業を行いました。


第1課「富士山」問題C 

要約の評価ポイントは、キーワードがきちんと含まれているか、構成を的確にとらえているかに置きました。

実際に授業を行い、目標に掲げた「メモを取る」ことについて、効果が見られました。最初は数語だったメモが、第10課を過ぎたあたりから目に見えて語数も増え、ポイントも押さえられるようになりました。何よりも学習者がメモを取ることに積極的になりました。
また、要約に関しても第5課までは書き込み型になっており、学習者が要領を掴みやすく、第6課以降にスムーズに進むことができました。受け身になりがちだった学習者が自ら学び、発言するという、聴解から幅を広げた授業を展開することのできる手応えのある教材だと感じました。