東京HOPE日本語国際学院 教務主任 渡邊一彦
●教案作成の前に行うこと
『みんなの日本語初級』は学習者だけでなく教員にとっても親切な教科書だと言えます。『翻訳・文法解説』を始め多様な副教材は教員の手助けとなっています。
教師は授業に臨む際、準備として教案を作成すると思いますが、その教案の作成にあたっては『本冊』巻末の「学習項目一覧」(図1)、「索引」を有効に活用することが大切です。
まず「索引」から各課で提出されている語彙や表現を拾い出し品詞ごとに分類した語彙表を作成します。既習語彙の確認と導入漏れを防ぐためにも有用なものかと思います。
そして「学習項目一覧」に基づき、文型ひとつごとに行う練習内容を提出順にした表(表1)を作成します。表1は『みんなの日本語初級Ⅰ第2版本冊』巻末の「学習項目一覧」をもとに、第1課の文型1に対して行う練習と、同様に『〃本冊』巻末の「索引」より拾い出した、文型1の練習で利用する語彙を授業で行う順番通りに並べたものです。
「学習項目一覧」は授業全体の構成を考える際の基本となるものですから、ここで示されている各課の学習の流れを参考に、語彙表を確認しながら練習A・B・Cを中心にそれらを補うドリルなど具体的な練習内容を準備し、各学習項目で行うべき練習を明確にしておくのです。
複数の教員が1クラスを担当することが一般的な学習機関では、「学習項目一覧」「索引」を活用した準備を行うことで授業の進め方や引き継ぎについて教員間の情報共有に役立てることができるでしょう。
図1『本冊』学習項目一覧 |
表1 第1課練習内容一覧 |
●教案作成の目的
教案作成というと文型・文法の意味や用法を調べることにかなりの時間を費やすかもしれません。教員が知識を身につけることはもちろん重要ですが、担当クラスのその時の状況に合わせて文型の提出順序や練習ドリルの組み合わせを変えたり、導入方法を複数準備したりするなどして指導内容を組み立てていく、この作業こそが教案作成の際に工夫すべきことではないかと思います。
例えば、13課文型3「わたしは (場所)へ (V)に 行きます」が担当部分だとします。その場合、前の日(前回の授業)に学習した文型2「(V)たいです」の復習を経たうえでその日の導入につなげていく方法が考えられます。
T「きょうは暑いですね」「わたしは冷たいジュースを飲みたいです」
T「わたしは喫茶店へ行きます」「喫茶店でジュースを飲みます」
→「わたしは喫茶店へジュースを飲みに行きます」
まず前回の復習を行ってからその日の学習項目を進めるというのが学習機関によっては約束事となっているかもしれませんが、別の方法が効果的ということも考えられます。
上記の文型の導入を月曜日に行うとしたら、教室に入ってからの学習者とのやりとりは、まず前日、前々日の週末の過ごし方を問うことから始まるでしょう。
T「わたしは日曜日図書館へ行きました」「図書館で本を読みました」
→「わたしは日曜日図書館へ本を読みに行きました」
というように新しい文型の学習に導いていく方法も考えられると思います。そして文型3の導入、練習をある程度進めたのちに、
S「わたしはレストランへすしを食べに行きました」
T「おいしかったですか」
S「はい、おいしかったです」
T「そうですか。わたしもすしを食べたいです」
というように文型2「(V)たいです」の復習に持っていけるように授業の構成を考える、それが教案作りだと考えています。
教案は、クラスや学習者の状況(例えば、進級できずに2度目の履修であるなど)を考慮に入れた導入方法と練習内容の組み合わせ、さらには時間配分を加味した上で作成するものであり、表1のように事前に練習内容を準備しておくことで文型の提出順序を入れ替えたりするなど応用が可能となります。そのためには自身の担当部分だけでなく前後の学習内容も理解しておくことが重要です。
また授業準備の一環として補助教材を自作する場合、フォントを明朝体(例:「さ」)ではなく教科書体(例:「さ」)に統一したり、ルビを振る場合には文字の上下どちらにするかなど、些細なことですが学習の妨げになり得ることはできるだけ避けるよう配慮が必要です。
●授業後に留意すること
学習内容にもよりますが、すべての学習者が前日の学習内容をすべて身につけている、復習など必要ないということは稀です。13課文型3の例でいえば、「わたしは図書館で本を読みに行きます」という誤用が出るかもしれませんし、「読み」という形を正確に言えないかもしれません。
その際行うべきフォローについては、事前に作成した表1の準備のうち実際に行った、または行わなかった内容を振り返ることにより、授業後の問題点や課題の確認に役立てることができ復習すべき内容を把握することができます。
学習内容の定着度については前述の教案や表1によって授業中に行った導入・練習の効果の確認が可能となり、学習者の理解を促すためにどのようなフォローを行えばよいのか検討する際の叩き台となるでしょう。『本冊』巻末資料などを大いに活用し、“教案作り”に備えていきたいと考えています。