目白大学留学生別科非常勤講師 
元(財)海外技術者研修協会(AOTS)
木戸恵子 

前回までの3回で、『みんなの日本語初級』の基本的な教え方や、『みんなの日本語初級』シリーズの教材などをご紹介いたしました。
今回は、『みんなの日本語初級Ⅰ』(以下『初級Ⅰ』)と『みんなの日本語初級Ⅱ』(以下『初級Ⅱ』)のそれぞれの特徴について、少しご説明したいと思います。

1.学習目標

第1回目でもご説明しましたが、『みんなの日本語初級』は、易しい文型から難しい文型へと学習を進めていく文型積み上げの教科書です。『初級Ⅰ』を学習後、『初級Ⅱ』へ学習を進めます。
『初級Ⅱ』の学習目標は、『初級Ⅰ』の目標が達成されたという前提で設定されています。

2.学習内容

1)新出語彙数と文型数

『初級Ⅰ』と『初級Ⅱ』で学習する新出語彙数と文型数は下記の通りです。

『初級Ⅱ』の新出語彙数、文型数は、どちらも『初級Ⅰ』よりも若干少なくなっています。

2)新出語彙の特徴

『初級Ⅰ』で学習する語彙は、「食べる」、「寝る」などの基本的な語彙と一般外国人に共通する日本での生活範囲の語彙です。

これに対して、『初級Ⅱ』では、意味や音が似ている言葉、同じ言葉でも意味が違う言葉、更に、抽象的な意味の言葉が増えてくるので、言葉を覚えるのが難しいと感じる学習者が多くなります。自動詞と他動詞も学習者にとっては覚えにくい言葉です。

例をいくつか挙げましょう。

新出語彙の導入に際しては、使い方がわかるように例文を提示します。

例1の例文 (○)…正しい (×)… 正しくない (?)…発話状況が制限される?

・10分休みましょう。(○)

・10分休憩しましょう。(○)

・昨日、会社を休みました。(○)

・昨日、会社を休憩しました。(×)

・昨日、会社で休憩しました。(○?)

例3のような場合は、「出る」の前の助詞もいっしょに覚えるように、学習者に指導するのがいいでしょう。

3)文型の特徴

『初級Ⅰ』では動詞の「て形」、「辞書形」など動詞のフォームを使った、依頼、動作の進行、許可などの文型を勉強します。

一方、『初級Ⅱ』で習う文型には、それまでに『初級Ⅰ』や『初級Ⅱ』で習った文型と類似する文型が多く含まれています。

初級後半では、このような文型の中から、状況や心情に応じて話し手(学習者)がどの文型を使うか判断することを求められるようになります。

※『みんなの日本語初級Ⅱ 教え方の手引き』4ページに主な類似表現が掲載されています。

文型を導入する際には、どのような状況(文脈)でその文型が使われるのか、丁寧に、そして適切に説明する必要があるでしょう。

3.『初級Ⅰ』から『初級Ⅱ』へ。そして、中級へ。

学習者にとって、初級の学習内容は日本語の土台を形成する大切なものです。土台(初級)がしっかりしていなければ、その上に立つ家や柱(中級、上級)は不安定になってしまいます。

また、話すとき、書くときに『初級Ⅰ』と『初級Ⅱ』の学習内容が使えるようになれば、かなりのことが表現できます。

特に『初級Ⅱ』において、学習者は、場面や状況、自分の気持ちに応じて言葉や文型・表現を選ぶことを要求されます。『初級Ⅱ』の学習が中級以降の日本語学習を成功に導く鍵と言っても過言ではありません。

教える側にとっても、『初級Ⅰ』では日本語が全然わからなかった学習者と次第にコミュニケーションがとれるようになる過程は楽しいものです。また、『初級Ⅱ』では言葉や文型の意味や使い方の違いを考えるのも興味深い作業です。

4回にわたって、『みんなの日本語初級』の概要や基本的な教え方についてご紹介いたしました。皆さんのお役に立てれば幸いです。