翰林日本語学院 教務主任 岸根彩子
○はじめに
まず私が日本語を教えている翰林日本語学院のクラスについてご説明します。
翰林日本語学院では常時17カ国ほどの国籍の学生達が、進学・就職・日本語能力試験の合格などそれぞれの目的を持って日本語を勉強しています。
その目的を達成するためにも初級レベルでは基本的な文法事項をしっかりと理解した上で、更に「話せる・聞ける・読める・書ける」力をバランスよく身につけることを目的とし、教材は『みんなの日本語初級』を使用しています。1つの課を8コマで学習し、約8ヶ月間で『みんなの日本語初級Ⅰ』『みんなの日本語初級Ⅱ』の勉強を終え、その後は橋渡し教材である『中級へ行こう』を使って勉強しています。
初級を教えている先生方はクラスで勉強した内容が生活の中で「使える」ことを学生に実感してもらえるよう様々な工夫をされていると思います。特に初めて日本語を学習する学生達にとって、教室の外で日本語を使ってコミュニケーションできるようになることは何よりも達成感が感じられることだと思います。しかし、限られた時間の中で導入→基本練習→発展練習までのすべてを行おうとすると時間が足りず、結局は教科書の練習をするだけで終わってしまったり、レベル差があるクラスでは発展練習がうまく行かなかったりと私自身たくさんの失敗がありました。
また、発展のペア練習で楽しく自分のことを話していても、書かせてみると間違いが多く、会話が上手になっても試験で点が取れない学生も多くいます。
そこで限られた時間の中でどのようにすれば学生が「使える」と実感できるような練習をさせることができるか。また、レベル差があるクラスでも無理なく発展練習ができるか考えるようになりました。その中で私が実践している練習方法について4回の連載でご紹介したいと思います。
○工夫1 学生に合わせて語彙をアレンジする
練習Bでは代入、変形、QAなど様々なドリル練習ができます。また教科書の練習を通してたくさんの言葉に触れることは学生が語彙を増やす上で必要なことだと思います。
しかし、学生に「使える」と思ってもらう授業をするためには、学生にとって必要な語彙・場面で練習をすることが大切です。「教科書に出てくる言葉」ではなく、「学生にとって必要な言葉」を優先し、教科書の語彙をどんどんアレンジして行くことも必要だと思います。
少し極端な例かもしれませんが、日本語の勉強を始めたばかりのクラスでは教科書は使わずに練習Bの語彙を学生生活をスタートさせたばかりの学生達にとって必要なものにアレンジして口頭練習を行っています。導入、基本練習、発展練習のうち、1課~3課くらいまでは導入と発展練習を同時に行い、時間効率と「使える」「使いたい」という動機の向上を目指した活動を行うということです。
例1)1課 練習B 『みんなの日本語』の登場人物を学校スタッフの写真パネルに置き換え練習する 教科書 B-1 ミラーさんはアメリカ人です。 B-6 Q:あの方はどなたですか。 A:グプタさんです。IMCの社員です。 アレンジ |
補足)実際の事務スタッフ、教員の写真と名前を使いますので学生は必死で覚えようとします。母国での学習歴がある学生も飽きずに練習するようになりました。
また学生が用事で受付に行った際に必要な「○○先生をお願いします」「私はD1クラスの○○です。学生番号は○○○です」などの表現も合わせて練習しています。
例2) 3課 練習B1、B2 練習B-1の図を学校の見取り図と置き換えて練習する 練習B-2では語彙を学校に実際にある物に換えて練習する 教科書 |
補足)この他、クラスで学校の中を歩きQA練習を行うこともあります。
自動販売機や掲示板などの語彙も学校の中にある物の写真をそのまま使いますので学生は問題なく理解できます。
以上のように学生にとって必要な言葉・場面で練習した後に、改めて教科書を開きます。
初級のうちから文を読むこと、書くことに慣れさせていくためには練習Bを使って代入ドリル、QAドリルをたくさん行い、そして答えをノートに書き写すことは初級の段階でとても大事だと思います。特に非漢字圏が多いクラスでは、書くことに非常に時間がかかりますが、だからこそ書く時間をしっかりと授業中に取り、正確に早く書けるようになる練習をさせています。また、練習Bを目で確認する作業を入れることで、自然に日本語の語順や文法的な事項を学生自身が整理することにもつながると考えています。