翰林日本語学院 教務主任 岸根彩子

『みんなの日本語初級』の練習Cでは学習した文型や表現がどんなときに「使える」のかということを学習者にわかりやすく示しながら練習することができます。
私が教えている日本語学校ではできるだけ教科書を開く前に練習Cの絵カードを見せ、ここはどこなのか、この人は何をしたいと思っているのかなど発話の目的や状況を学生から発話を引き出す形で確認してから練習をするようにしています。
この度新たに発行される『みんなの日本語初級Ⅰ 第2版』では練習Cの絵が教科書の中に提示されるということですので更に使いやすくなることと期待しています。
私は練習Cを導入に使うこともありますが、基本は導入後に口頭でドリル練習を行い、その後、練習Aの読み合わせと練習Bを利用してのドリル練習を行います。そして学生達がその文型の持つ意味、用法を理解した上で練習Cを使って練習を行っています。

練習Cが「自分のことを話す」内容、例えば経験を話すなどのときには発展練習としてペアやグループで話す練習をすることは多くの先生が実践なさっていると思います。
教科書を離れて、実際に学生達が興味のあること、行ったことがある場所、行きたい場所などの話題で練習ができたら楽しく教室活動ができますし、練習の中である学生が日本の文学オタクだったり、自転車で色々なところを旅行していたり…など学生の意外な趣味や経験を知るきっかけにもなります。そしてそれはクラスの雰囲気作り(私の経験上、仲のいいクラスは出席率も勉強のモチベーションも上がります)や、教師の次回の授業準備(「次の導入には彼のこの趣味を使おう」「このクラスはアニメが好きな人が多いから、今度アニメの一場面を練習に使おうか」など)の情報源にもなります。

しかし、学生に自由に会話させるにも教師側が準備をして臨まないとせっかくの「自分のことを話す」という時間を有効に使えないこともあります。
私の今までの授業の反省点から考え、実践していることをご紹介したいと思います。

日本語のクラスには日本語そのもののレベル差だけでなく、日本についての情報量の差もあります。どこにも遊びに行ったことのない学生もいますし、「ドラえもん」を知らない学生もいます。言いたいことを日本語でどういったらいいのかわからない、そして他の学生ペアの発表を聞いても何について話しているかわからずに不安を感じる学生もいるでしょう。そして練習の時間には限りがありますので学生一人ひとりが言いたいことを「それは日本語で何と言うのか」を確認し、またそれをみんなにもわかるように発表させるというのは時間的に無理があります。結果、不完全な文で発表し、周りの学生も???という微妙な雰囲気のまま練習を終えることになってしまったこともあります。
そこで、日本語力や日本についての情報量に差のあるクラスでは、写真や絵などで「自由に会話が作れるヒント」を提示してから練習するようにしました。

例1 『みんなの日本語初級』12課 練習C 1

練習Cの練習後、学生をペアにして自分のことを話すよう指示します。
このときに学生がおそらく日本に来てからはじめてしたと思われることを写真や絵でどんどん貼っていきます。

提示する写真パネルの例

例1 温泉の写真
例2 横浜みなとみらいの観覧車
例3 学生に人気の定食屋
例4 納豆
例5 寮の学生がよく利用する業務用スーパー

すると学生はその中から知っているもの、経験したことがあるものを選んで発話しようとします。ポイントは教師側が初めから語彙の説明と板書はしないことです。板書をすると結局代入練習になってしまいますので、質問がない限りは説明しないようにしています。写真があることで知らない学生は知っている学生や教師に「あれは日本語で何ですか」と質問することができますし、他の学生の発表を聞いて、何のことを話しているのかわからないということもありません。
発表させる際には必要に応じて、以下のように学生とのやりとりで語彙を確認し、教科書以外の語彙を増やし、正確に発話できるように気をつけさせることもできます。

T:ここはどこですか?
S:温泉です。
T:温泉に…?(入るジェスチャーをして)温泉に入ります。

   ↓

S1:きのう初めて温泉に入りました。
S2:どうでしたか
S1:とてもよかったです。

 
また、学生が選んだものは本当の経験ですから、どこの温泉に行ったのか、だれと行ったのかなどの質問も他の学生から自然に出てきます。
そして、このような練習を繰り返すことで、漫画の話題は○○さん、食べ物の話だったら△△さん、などとクラスの中でキャラが立ってくれば、ますます教師が用意しておく写真も学生の言いたいこととマッチし、学生同士の練習がより楽しくできると思います。