翰林日本語学院 教務主任 岸根彩子

教科書活用講座では3回にわたり今までの自身の授業の反省点から考え、実践している練習B、練習Cでの教室活動をご紹介させていただいてきました。
最後の第四回ではまとめとしまして、「わかった」「知っている」から「使う」教室活動をするための導入から練習B、練習Cまでの流れ、特に第二回、第三回でご紹介した練習Cの前段階の練習Bの教室活動についてお話させていただきたいと思います。

『みんなの日本語初級』の練習Bは「様々なドリル形式を用いて、基本文型の定着の強化を図る」ことを目的とした練習です。
授業での教師による導入や説明、または文法解説書などで学習した文型を「どんなときに使うか」頭で理解していても、相手に伝わる正しい文がスムーズに口から出てこなければ「使える」とは言えないでしょう。そのための基本練習としてドリル練習は欠かせないものだと思います。しかし、頭で理解していても口を動かさない学生や、楽しい練習には積極的に参加するもののドリル練習になるとつまらなそうに下を向いてしまう学生もいます。授業中にそのような学生に個別に当てて質問してみると案の定間違いがあり、そこで更にドリルを追加、そして学生の声がだんだん小さくなっていき・・・という悪循環を経験したことがあるのは私だけではないはずです。これはドリルの役割が「定着の強化」であるのにドリル自体が授業のメインとなってしまった場合に起こることだと考えます。

そこでドリルも「使う」練習のための一部であることを学生に実感してもらうために実践しているのが、文型導入直後に「使う」練習を入れ、さらにその後で定着のために練習Bを行うことです。つまり、導入→ドリル→「使う」練習ではなく、導入→「使う」練習→ドリルと順番を入れ替えるのです。
この導入後すぐの「使う」段階では文法の正確さよりも、どんなときに使えるのかその文法の用法を理解することと、コミュニケーションできることの楽しさを感じてもらい、新しく勉強する事項への興味を持ってもらうことを目的にしていますので正確に言えるまで何度も言わせたり、書かせたりということは行いません。

例1 『みんなの日本語初級Ⅰ』24課
文型2「<Vて形>あげます」
母の日や恋人の誕生日にプレゼントをあげたいがお金がないという状況設定で発話練習

発話例)A:母の日に何かプレゼントをあげますか。
     B:いいえ、でも料理を作ってあげます。

教師―学生ではなく学生同士のペアやグループのほうが積極的に話そうとします。
教師はグループを回り学生からの質問に答えます。またうまく言えていない箇所や間違いなども後でフィードバックできるよう学生の発話をよく聞きます。

よくできているクラスでは絵を見せて会話を作らせる練習を行う場合もあります。
導入後すぐの活動ですから学生が自由に絵を見て話すというよりも皆で考えながら会話を作りあげる活動になります。時間がある場合はその課の最後に同じ絵を使用して今度は正確に、そして一定のスピードで自然なコミュニケーションができることを目標にして同じ練習をさせることもあります。

例2 『みんなの日本語初級Ⅱ』29課
文型1 「Nが<Vて形>います」

T:あなたはきのう本屋で本を買いました。
  家に帰って本を見たら…!

T:本屋へ行って、何と言いますか?

以上のような「使う」練習を行った後で、フィードバックとして活用や助詞の確認、そして文のイントネーションなどについて注意を向けさせます。
その後、練習Bを「正確に」「早く」「わかりやすい発音で」を目標に練習させます。
そして練習Cで再び「使う」練習へ戻ります。意味用法を知り、基本練習も行った上での練習Cではできるだけ学生が自分で考えて発話できるような練習を心がけています。(よろしければ第二回第三回をご覧ください)
このように導入~練習B~練習Cと練習のポイントを絞ることで「使う」教室活動の流れができ、より学生に今日の授業では「使う」練習をしたと実感してもらえるのではないでしょうか。