国際日語教育学院 教務主任 神部秀夫



『みんなの日本語初級 第2版』の本冊が出版されるとともに、準拠の『みんなの日本語初級 第2版 翻訳・文法解説』(以下、『翻訳・文法解説』)』も改訂されました。また第2版では、ベトナム語版の『翻訳・文法解説』が出版されました。ここでは、『みんなの日本語初級』の『本冊』と『翻訳・文法解説』とをどのように使っていけばよいかについて述べていきます。その前に以前の スリーエーネットワーク日本語・外国語図書目録(2007年)で『翻訳・文法解説』について述べた内容を簡単に記しておきます。



●『翻訳・文法解説』は与えずに『本冊』だけを与えるという考え方がありますが、それはお薦めできません。『翻訳・文法解説』も持たせて学習した方がいいです。
主な理由は次の二つです。

①『本冊』だけでは自宅での学習が難しいからです。授業中の教師の板書をノートに書き写しておいたとしてもそれだけを基に文法の体系的な理解を学習者に望むのは現実的ではありません。

②日本語学校ではほとんどの学校がチームティーチングをしていると思いますが、教師間には力量の差があって学習者の既習語彙だけで文法を説明できる教師もいますが、そうではない教師もいます。それを補うのが『翻訳・文法解説』なのです。


●『翻訳・文法解説』を与えると学習に弊害があるのではないかと考える方がいますが、それは教師の力で防ぐことができますし、そうしなければなりません。
ポイントは「見てもいいとき」と「見てはいけないとき」のメリハリをきちんとつけることです。授業中に『翻訳・文法解説』を開いたまま、それを見てばかりいるから、教師の発話を聞いていない、集中していないという話をよく聞きます。しかし、その問題は教師が「授業中は『翻訳・文法解説』は閉じる」と指示をして、「もし見ていたら閉じさせる」ことを実践すればよいのです。与えることの弊害を心配するより、弊害をきちんと防ぎ、効果的な活用法を考えるほうが教師にも学習者にも有益なことです。


●『翻訳・文法解説』を持つことが学習の拠り所となります。
授業の中だけで全てを理解する学習者はいません。課題をしたり試験に備えて準備することが必要です。その際に『翻訳・文法解説』は自宅学習での拠り所となります。
本冊だけやノートがあっても自宅学習がスムーズにいかないのは先に述べた通りですが、昨今、ベトナム人学習者が大幅に増えていることを考えると、彼らの場合、ベトナム語の辞書や文法書などは、もともと種類が少ないですし、また古かったり、高価だったりして困ることが多いようです。またベトナム人留学生の先輩たちが少ない場合、分からなことがあったとき、すぐ先輩に聞けるわけでもありません。
そうした学習環境にあって『翻訳・文法解説』は日本語学習の拠り所として大きな役割を果たすことは間違いありません。


では改めて第2版の『本冊』と『翻訳・文法解説』についての効果的な使い方について述べていきます。

まず強く言っておきたいのは、『みんなの日本語』は、『本冊』それだけでなく、『翻訳・文法解説』、付属CD、『標準問題集』、『絵教材』なども含めて互いに関連し合ったものを組み合わせて成り立っているということです。つまりそれぞれの教材を単独なものとして扱うのではなく、それぞれがどう結び付いているのかをよく考えた上で授業に臨むことが必要です。ここでは本冊と翻訳文法書との関連について、二つの本をそれぞれ読み込んでおくことがいかに大切かについて「文型の持つ機能」という点からお話しします。

例として『みんなの日本語初級Ⅰ 第2版』の14課の「~ています」について考えましょう。
14課の「~ています」は、「カリナさんはコーヒーを飲んでいます」「サントスさんは本を読んでいます」などの、いわゆる現在進行形です。教師は授業で実際に飲んだり読んだりする様子を見せたり、学習者にさせるなどして導入することが多いと思います。そしてこの「現在進行形」の概念や意味を学習者が理解することは易しいといえるでしょう。

しかしちょっと考えてみてください。実際の会話の中で話し手と聞き手の目の前にいる人を指して「あの人は何をしていますか」「ご飯を食べています」という会話をするでしょうか。しません。なぜならそんなQ&Aをしなくても両者の目の前にいて分っていることだからです。では実際に「~ています」という文型を使うのは、どんな場面で、どういう会話になるでしょうか。実はそれを考えることが「~ています」の「機能」を考えることです。次の会話を見てください。


佐藤さんは どこですか
…今 会議室で松本さんと 話しています。
じゃ、また あとで 来ます。

この会話を読んでお分かりのように「~ています」の「機能」は、話し手と聞き手の目の前にいない第三者の行動について描写することといえます。次の例も同様です。


A:さあ、行きましょう。
  あれ? ミラーさんが いませんね。
B:あちらで 写真を 撮っています。
A:すみませんが、呼んでください。

実は①は14課の「例文 5」で、②は14課の「練習C 3」です。

14課で「~ています」を教えるときの到達目標の一つはこの会話といえます。