東京語文学院日本語センター 川崎香織

私が教えている日本語学校では『中級へ行こう 日本語の文型と表現59』を使った授業の中で、作文指導にも力を入れています。
大学や専門学校に進学するのが目的であれば作文は必須で、作文が苦手、または書けない学生にはより丁寧な作文指導が必要だったからです。さらに入試では感想文程度ではなく、自分の意見や状況を論理的に説明するような作文を求められます。そこで『中級へ行こう』の課末の作文コーナーを利用し、作文指導をすることにしました。
この授業では、書く順番(全体の構成)の理解と、段落ごとにどんなことを書けば作文になるのかを知ること、短くても、関連のあるまとまった文章を書くことを目的としました。

各課の授業の流れは
① 文型導入
② トビラのページで課のテーマについて話す
③ 新しいことば表現の導入
④ 本文読み
⑤ QA
⑥ 作文

とほぼ教科書の内容の順番通りにすすめていきます。
最後に作文を書きますが、この作文の部分を丁寧に行っていきます。
教科書1冊(全10課)に使う時間はだいたい1課に6時間、全30回程度となります。

作文指導の授業は、以下のようにすすめました。
① トビラの話題や本文を踏まえて、テーマを確認する(第一段落)
② 第一段落と関連付けながら、教科書の指示や質問をヒントに意見を出し合う(第二段落)
③ 全体を踏まえて、テーマについての感想を考える(第三段落)
④ 実際に作文を書く。教師が個別にアドバイスをしながら書き進められるようにする
  一回目の授業では原稿用紙の使い方も確認

課末の作文は教科書にある質問や指示をヒントに書くようになっていますが、作文が苦手な学生にとっては、これだけでは書き進めることができませんでした。

そこでこの教科書の各課のテーマについて、段落や書く順番を意識した多少細かい質問を作りました。以下は2課の例です。
★質問票の例:
2課 テーマ「災害」(地震、台風、洪水、大雨、大雪など)
  1)あなたの国には、どんな災害がありますか。
  2)あなたは、どうですか。
     ①災害を経験したことがありますか。
     ②どんな災害でしたか。どんな気持ちでしたか。
     ③災害のとき、どうしましたか。
     ④災害のあと、どうでしたか。
  3)災害について、どう思いますか。

教科書の2課は以下のようになっています。おそらく作文を苦手としない学習者は教科書にあるヒントで十分にまとまった文章が書けると思います。

上記、「質問票の例」のように質問票を全10課分作りました。
作文指導の授業では、初めに質問票を利用して書く順番(全体の構成)を確認し、段落ごとに口頭で意見を出し合うなどして書く内容を意識させました。この質問票のナンバリングが重要です。
2課の質問票の例をご覧ください。
1)2)3)は段落を表しています。
2課の例の場合、1)は第一段落となり、テーマの提示をすることになります。
2)は第二段落となり、自分のテーマに関する説明です。2)の①~④が書く内容のヒントになる質問です。できるだけ考える流れに沿うように並べました。
3)の第三段落は全体のまとめになっています。全体のまとめであることを意識させるとうまくいきました。

上記の指導をしない場合、初めに台風の話を書き、第三段落では洪水の感想を書くなど災害の羅列となることもありました。
課によっては学生に提示するテーマも工夫しました。例えば2課では「地震」の経験がない学生もおり、自国での災害につなげました。また6課「発明」では「わたしの国で発明されたもの」が作文のテーマとして提示されていますが、自国で発明されたものが思い当たらない学習者もおり、このときは「世界にある、すごいと思う発明」について書くようにしました。
 
学生は10回の作文を通して、各テーマについて考察し、一貫性のある文を書く経験を積み上げていきます。この段階では単純でやさしい内容です。しかし、出来の良し悪しはあっても、まずは、構成のある文章を「書けた」という経験を得ることが、学生にも教員にも大きな喜びだったように思います。

6課以降は日本留学試験を意識して四段落構成にしました。5課までに三段落構成で練習を重ねていたためか、四段落構成への移行はスムーズだったように思います。

今回のこの授業は、日本語を学ぶ学生たちにとってなにが大変で、教える教師は何をすべきなのかを見直す良い機会ともなりました。この作文指導が、近い将来彼ら学生にとっての成果になることを心から願い、授業も工夫し、見直しながら行っていきたいと思います。

※本コラムは『中級へ行こう 日本語の文型と表現59』(初版)を元に執筆されたものです。内容は『中級へ行こう 日本語の文型と表現55 第2版』をお使いの方にも参考にしていただけます。