田代ひとみ(『新完全マスター読解』著者)

1.はじめに

日本語能力試験N3の読解では、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」かを測るため、150〜200字程度の短文、350字程度の中文、550字程度の長文、600字程度の情報検索の問題が出題されます。

そこで、『新完全マスター読解』はまず基礎的な練習をしてから、試験の形式に合わせた問題に取り組み、試験に合格する実力をつけることを目指しました。
ここでは、読解にあまり慣れていない学習者を中心とした読解対策授業の進め方をご紹介します。

2.文章を読むための基礎的な練習

N3を受験しようとする学習者、特に非漢字圏の学習者は、読解が苦手という人が多いようです。初級の授業では口頭練習が中心であったので、中級に入った時点では、読むことに慣れていないのです。
試験問題の200字程度の短い本文でも、選択肢の文を正確に読むことさえも時間がかかります。また、知らない語彙や漢字がある、文型の機能が思い出せない、長い文がわからないなど、さまざまな点で戸惑います。

そこで、本書では、すぐに実践的な問題に取り組むのではなく、はじめに基礎トレーニングをしていきます。

第1部 基礎力をつけよう
ここでは、1.で、話し言葉とは異なる書き言葉の特徴について、2.でN3レベルで必要な読解のポイントを練習します。
それぞれの部分では、短文問題のあとに読解のポイントの説明、それに関する練習をします。「読むときにこの点に注意するといい」ことが伝わればいいでしょう。

読解対策に使える授業時間は、それぞれの教育機関によってさまざまだと思いますが、一度に1問だけでも2、3問まとめてもいいです。いずれにしても間をあまりあけずに少しずつでも練習を重ねていくことが効果的です。
テキスト16-17ページ

第2部 いろいろな文章を読もう
第2部では、メール(プライベート)、メモ、指示文等、様々な文章のパターンに慣れる練習をします。どの部分に注意して読めばいいかを、形式面からみていきます。すでに実際にこれらの文章に接したことがある学習者がいれば、そうした経験も踏まえて取り組ませます。
テキスト38-39ページ

第3部 広告・お知らせなどから情報を探そう
ここは、日本語能力試験の試験の「情報検索」の問題に対応しています。必要な部分だけを探し出し、そうでない部分は読み飛ばす読み方です。ただ、各種類の文書で頻出する語彙は押さえておきたいので、覚えるように言います。

学習者によっては、文章を読むのは苦手だが、こうした情報検索は素早くできる人もいます。そのような学習者が多いクラスでは第2部より第3部を先に練習するのも1つの方法です。
テキスト60-61ページ

前作業について
第1部から第3部までは基礎的な練習なので、読解に入る前に、前作業として「読む前に」の質問、また問題の話題に関する質問を学習者にしてください。実際の日本語能力試験の読解は、題名も写真やイラストもない状態で文章を読むという「特殊」な読解です。しかし、一般の読解には題名、見出し、写真やイラストなどがあり、教師が内容に関連する質問をしてから読むので、「トップダウン」の読み方ができます。特にN3レベルの学習者はまだ読解に慣れていませんので、予測などで知識を活性化させたほうが、読解が容易になります。

3.実戦問題

第1~3部が終わったら、いよいよ「第4部 実戦問題」で、試験問題と同じ形式の問題に取り組みます。本書の順序と同じく、短文→中文→長文→情報検索の順で読むのがいいですが、情報検索を先にするという方法もあります。また、1回に扱うのは短文だけ、長文だけというのではなく、授業時間に合わせて組み合わせてもいいでしょう。

①前作業と読解
実戦問題に入ってからは、前作業ははじめの時期にはしますが、その後は試験と同様に行いません。また、読むときには辞書は使わずに読むように言ってください。未知語があっても前後関係などから類推するようにするのです。本書では、N3レベルではやや難しいと思われる語句には、本文のあとに(注)で説明を加えました。また、「語句・表現」もヒントにしてください。「語句・表現」はよく使われるものなので、覚えておくように言います。どうしても読めないようなら、教師の判断で追加の語彙説明をつけてください。

②答えの確認
本文を読み、大体の学習者が答え終わったら、答えの確認に入ります。学習者によっては読むスピードが遅く、なかなか終わらないことがありますが、試験対策ではある程度のスピードで読み、答えなければ間に合わないので、それを意識させる必要があります。

答えの確認は、いきなり教師がするのではなく、まず学習者同士ですることをお勧めします。2~4人のペアかグループで行い、不明点も合わせて聞き合います。グループの場合、一人リーダーを決めておくと、話し合いがスムーズに進みます。人によって答えが違うなら、なぜそれを選んだかを説明させます。グループで行うと、教室全体で活動するよりも気軽に質問でき、理解が深まることが期待できます。

その後、教師と答え合わせをし、学習者が誤答を答えたなら、他の学習者も同じかどうかを聞きます。そして、なぜそれは誤りか、正答はどれかを、本文を参照しながら理解させます。本書には別冊の「解答と解説」にくわしい解説がありますので、それを参考にしてください。設問以外にも内容で難しそうなところがあれば、確認します。また、本文にある文型を忘れている場合は、文型と例文を挙げて、どのような機能かを思い出させます。

③語彙・表現の確認
授業の最後に、わからなかった語彙・表現をマークし、辞書で確認して覚えるように言います。問題文はN3レベル相当の語彙・表現で書かれていますので、わからないものは試験に備えて覚える必要があります。本書は、非漢字圏の学習者でもすぐに調べられるように、漢字にふりがなを本試験より多くつけました。

未知語は前後関係から類推できますが、未知語が多すぎると、結局は読解ができません。語彙・表現を増やすことも、読解能力の向上に役立ちます。

④発展
さらに時間があれば、本文を見ないで再話(何が書かれていたか、ペアやグループで簡潔に話をさせる)をする活動や、その内容についての話し合い、音読をさせてもいいでしょう。再話は近年の研究で効果が実証されています。

⑤余裕のある学習者の場合
ある程度読解に慣れている学習者の場合は、本冊の第2部・第3部の問題から始めます。その際、本冊の「解説」は見ずに取り組ませます。そして、答え合わせの後に「解説」を見てそれぞれの文章の特徴を確認します。内容がよく掴めなかった場合には、第1部に戻ります。

さらに余裕のある学習者なら、チャレンジングな問題(中文や模擬試験)から始めて、その後、第1部、第2部に戻って確認する方法もあります。その際、短文でも侮らず、正確に読むことを意識させます

4.おわりに

読解は、語彙や文法で学んだことを土台に文章を読む作業です。話し合い等の活動を通じて、より深く学ぶこともできます。教師が学習者の様子をよく見て調整していけば、少しずつ理解が進むようになり、充実した、楽しい授業になると思われます。