講師紹介 犬飼康弘 財団法人 ひろしま国際センター研修部 日本語常勤講師
『アカデミック・スキルを身につける 聴解・発表ワークブック』著者

第4回 フィードバック

第3回の最後に、授業をする上で個人的に最も重視している部分がフィードバックであると述べました。

今回は、そのフィードバックを中心に進めていきたいと思います。

具体的な話に移る前に、まず『聴解・発表ワークブック』を使った場合の授業の大まかな全体イメージを以下に記したいと思います。

「基本練習編」→「中間課題発表」→「最終課題構想発表」→「応用練習編」→「最終課題発表」

実際には、様々な制約があり常にこのようになるとは限りませんが、週1コマ(90分)、
半期15週(年間30週)の授業の場合、およそ2年で上記の内容を消化することができます。
(週2コマ(90分×2)×15週であれば半年でも可能です)

さて、上記に「最終課題発表」なるものを示しましたが、「応用練習編」では、学習者がそれぞれ課題(テーマ)を設定し、最終課題作成に取り組みながら学習していきます。

そして、この「最終課題発表」が学習の総まとめとなります。

その第一段階が「最終課題構想発表」で、それぞれが設定したテーマを発表し、意見交換をさせています。

この「最終課題構想発表」で、学習者Bは「中国人留学生がなぜ増加しているのか」をテーマに掲げ構想発表をしました。

その時のAとの質疑応答は以下のようなものでした。
※2023年1月現在、動画非公開

図1 フィードバック資料(第8課)

これを見ると、Aの質問が始まる前にBが回答を始めたり、Bの回答が終わる前に再びAが話し始める等、
質疑応答の方法、マナーともお世辞にも良いとは言えません。
しかし、これは質疑応答練習に移行するための、いわば先行タスクであり、「応用練習編」の最初は 、
このビデオからスタートしました。

学習者は、ビデオを通して上記で触れたような問題点を確認しながら、まず、第3回で紹介した質問の仕方を学習します。

その結果、翌週の質疑応答でのAの質問は次のように変化しています(ちなみに、この回の発表者のテーマは「草食化の実態」でした)。
※2023年1月現在、動画非公開

図2 フィードバック資料(第8課)

不十分な部分はありますが、図1に比べ、「前置き」がされていたり、
「お願い」の言葉で質問が終わっている等、かなり改善されていることがわかります。

もちろん、この段階では、まだ回答の仕方はしていませんので、次の回で同様に回答の仕方を学習していくことになります。

このように、フィードバックは客観的に自らの問題点を確認し、学習のポイントを明確にしつつ、新しい段階へと進んでいけるよう、各課を繋ぐ役割を果たしてもいます。

これは、「基本練習編」でも同じです。

第2回で学習者が作った発表のためのメモを提示しましたが、図3は同じ課の別課題の発表例です。

※2023年1月現在、動画非公開

図3 フィードバック資料(第3課)

この学習者の発表では、「問題提起」の部分に「データの解釈」が含まれてしまい、冗長になっていました。

このような事例に対して、その都度、上記で触れたような構成と、その構成を表す表現を確認しながら問題点を確認していきました。そうすることで、発表に対する分析力が養われ、今後の実践において役立つだろうと考えたためです。

第2回で、発表の原稿を書く問題点として、応用力に繋がっていかない可能性を指摘しましたが、もし、原稿を書かせ、添削をした上で発表をさせていたとしたらどうでしょう。

図3で指摘したような問題点を学習者に気付かせる機会を奪ってしまうことになるのではないでしょうか。

「聞いてメモを取る」ことも「発表」も、最初の数回の取り組みで多くの問題点を確認することができます。

その問題点を含め、どのようにフィードバックしていくかが問題となるわけですが、学習者の「問題解決能力」を養うためにも、過程における不完全さを敢えて許容することも、時には必要なのではないかと思います。

第1回で、学習者が様々な模索をしながらスキルを磨いていくことについて触れましたが、この「模索」のための機会を提供することも、教師の重要な役割だと言えるのではないでしょうか。

様々な現場で、様々な問題があることと思います。ここで紹介した事例が最善というつもりはありません。
しかし、学習者が教室外で種々の問題解決の必要性に迫られているのも現実です。

分かりにくい部分や説明不足の面もあったと思いますが、
この連載が少しでも何かのお役に立てば幸いです。