講師紹介 伊藤とく美 岩谷学園テクノビジネス専門学校日本語科主任教員
『日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現』共著者

今回は『上級話者への道』について、教科書作成の理念、シラバスと目標、構成と教科書の使い方についてお話します。
中級から上級レベルの学習者への会話指導について、何をどのようにしたらよいかわかりにくいという声が聞かれます。
そこで、この教科書の各課の項目を順番に進めていくことで教師は会話の指導ができ、学習者も教科書の順序を追いながら予復習できるように工夫しました。

1.『上級話者への道』の理念
①会話指導の目標を具体的に提示
上級話者になるために何が必要か、各課の到達目標を提示しています。

②上級話者に必要な能力を明示
ACTFL-OPI(全米外国語協会、口頭能力インタビュー試験)の言語運用能力基準を参考に、
何ができなくてはならないかを目標にしました。
上級レベル:個人的・一般的な興味に関する話題、詳細な説明、描写、叙述ができる。

③中級話者に欠けている能力の明示
(1)ある話題について話すとき、どのような内容について話すことが期待されているかが分かっていない。
(2)まとまりなく思いついたまま話すために何を言いたいか伝わりにくい。
(3)話題に応じた語彙や表現が使えない。自動詞と他動詞の使い分けができていない。

④話し上手・聞き上手になるための気づきと内省
情報を伝える働きとは異なるコミュニケーションがあることを知ってもらいます。
そして、人間関係を育て、維持していくために、よい話し手とは何か、
聞き手として考えてもらう活動をします。

2.シラバスと目標
本書の構成は機能・話題シラバスで、各課に3つの目標を設けてあります。
その目標を意識して練習に取り組むことで会話力を高めていきます。

各課の目標
①コミュニケーションの機能上の目標:詳しい描写、複雑なこと、出来事の説明など

②ストラテジー・談話構成・文法上の目標:
 個人的なことについて失礼にならない尋ね方や話題に
 適した話し方、順序を示す言葉の使用など

③コミュニケーションの人間関係上の目標:
 個人的な話題への配慮や異なる感じ方を認め合う姿勢、
 聞き手としての役割を意識し、よい話し手、 聞き手を 目指すためのもの

3.『日本語上級話者への道』の構成
各課は以下のような構成になっています。

●さあ 始めよう!
●何をどんな順序で
Step.1
●どんなことばで1
●やってみよう1
●話すこころ・聴くこころ
Step.2
●どんなことばで2
●やってみよう2
●さあ 始めよう!
各課の話題について、自分の経験や知っていることを思い出して話題に関心を持
たせます。初・中級のように決められたことを話すのではなく、自分が話したい
ことを話してもらいます。
例:9課 ストーリーを話そう

日本の昔話で知っているものがありますか。
(例:浦島太郎              )

あなたの国でよく知られている昔話がありますか。
(                    )
●何をどんな順序で
各課のテーマごとに一般的によく話される内容とその談話構成を明示しています。
学習者は何をどんな順序で話せばよいかが分かっていません。長くて詳しい話には、
話の展開を考える必要があります。
そのために、話の枠組みややり取りの全体像をイメージしてもらいます。
「どんなことばで」「やってみよう」のStep.1とStep.2
Step.1で徐々に話す内容を充実させ、また話し方を洗練・充実させます。
Step.2では話す場面に応じた話し方を学習します。
●どんなことばで
「やってみよう」の活動に必要な語彙や表現を勉強します。

①言葉や表現の選択・導入をどうすればいいか?
学習者の既存の知識を利用して自律学習を目指します。
さまざまな問題形式で自由度のある活動をします。

②どんなことばや表現を教えればいいか?
中級とは違うことば・表現のレベル
→効果的で効率的な話し方に必要なことばと表現
・具体例と抽象的なまとめ
・論理的で説得力のある話し方
・さまざまな視点から見た意見
例:9課
1)物語や出来事を話すときの接続表現

2)接続表現の使い方(巻末「接続の表現 まとめ」)

話を聞いているときの相づちを線で結ぶ。
① うん             ・        ・a ビジネス場面などで使う
② ええ/はい、そうですね  ・        ・b 若い人がよく使う
③ それで?          ・        ・c 親しい関係でのみ使う
④ ウッソー           ・        ・d 納得がいったときに使う
⑤ なるほど           ・        ・e 相手に話の続きを聞きたいときに使う
⇒ 相手が話しやすくなり、会話が進む
・あいづちの打ち方や大切さを確認し、練習する。
・レベルが高い学生の場合、話しながらどんな相槌を打っているかを見る。
●やってみよう 1
学んだ構成や語彙・表現を使って、自分の経験や知っていることを実際に話してみます。
話す意欲・聞く楽しさがあることで  → 真のコミュニケーションになる

どんな活動をすればいいか。
・話題や目標に応じて楽しく
・Q&A
・ロールプレイ       ・一人で ・二人で ・グループで
・発表・討論
・ゲーム

例:9課
絵の順序を当てるゲーム
①ゲームの絵カードをグループ分準備
②やり方を説明し、ゲームをする
*レベルによってはことばを練習してからゲームに取り組む。
*レベルが高い場合はすぐにゲームを行う。
*2)の「接続の表現 まとめ」部分は、接続語を視覚的に理解できるようにする。

6コマ漫画A 話の順序
( )→( )→( )→( )→( )→( )
次の絵に移るとき使える接続表現
[すると・しばらくして・ところが・そして・それで]

1)漫画の説明
二人一組で活動資料集の小さいカードでまず説明をする。
レベルが低い場合は語彙や表現の練習の後で取り組む。
2)説明後、4コマ漫画のおもしろさや何を伝えたかったのか、主人公はどんな人か話し合う。
3)この漫画の主人公や登場人物についてどう思ったか、話し合う。

*発展
1.自分がよく話してもらった物語をみんなに感情を込めて話す。
2.物語の絵本を作成する → 発表 → 感想を伝える。
●話すこころ・聴くこころ
上手に話せても話が続かないとか上手に話してもなんとなく感じが・・・という人がいます。
「上手に話せる」より「上手にコミュニケーションできる」ようになるために話し手の気持ちや聞き手の感じていることを振り返ってもらいます。
1.自分が話し手・聞き手として感じたことを振り返る
2.もしかしたら相手も同じことを思っていないか

例 9課 話すこころ・聴くこころ
聞き手:友達の話を聞いて、その考え方や感じ方はあなたと同じでしたか。(はい・いいえ)
「いいえ、の人は、そのことをどう思いましたか」
(おもしろいと思った・変だと思った・いろいろな感じ方があると気づいた
(その他                        )

話し手:自分の考え方を、友達は理解してくれましたか。(はい、いいえ)
「いいえ」の人は、そのことについてどう思いましたか」
(悲しかった・残念だった・理解できないのが信じられないと思った・
自分の感じ方が変わっているのかなと思った
(その他                        )

同じ行動を見ても、見る人によって感じ方や考え方が違います。とらえ方の違いを理解して、
お互いに尊重できるといいですね。
教科書の質問に答え練習問題に取り組むことで自分が何をどのように話したらよいかがわかってきます。
そして、コミュニケーション上で配慮することにも意識が向いて日本語の上級話者になっていただけると思います。
先生方にもこの教科書で楽しみながら自信をもって会話の授業をしていただきたいと思います。