講師紹介  筒井千絵 フェリス女学院大学講師 『ここが大切文章表現のルール』著者

 

留学生への日本語作文指導は現場の教師にとって難しいところのひとつではないでしょうか。
今回から4回にわたり『ここが大切!留学生のための文章表現のルール』の著者、筒井千絵先生に作文指導のQ&Aとして連載をお願いしました。

第1回 中級に入った学習者(留学生)の作文指導

 

今日の質問

Q:中級に入った学習者(留学生)の作文指導では何を教えればいいですか。

 

A:

日本語教育機関では、中級になって初めて授業に「作文」の時間が設けられところが多いのではないかと思います。 初級では短文作成を中心に書く練習をしてきた学習者が、まとまった量の文章を書き始めると、多くの問題が現れてきます。

 

問題の種類は「表記」「語彙」「文法」など多岐にわたり、また明らかな誤用もあれば、誤用とは言えないが不自然な文章もあり、教師として何をどこまで直したらいいのか難しいところです。それに、教師が時間をかけて丁寧に添削しても、学習者が添削の意図を理解していなければ、また同じような間違いが出てくる可能性もあります。

 

今回は、中級学習者の作文によく見られる問題点を整理し、それらを減らしてわかりやすい文章を書けるようにするのに、どのような指導が必要かを考えていきたいと思います。

問題点1 既習の文法の間違い → 文章の中で正確に使えるように訓練

 

問題点2 まとまった文章を書くときに初めて必要となる、指示詞や接続詞の間違い → 文章の中での使い方を指導する

 

問題点3 語彙や表現の選択や使用のしかたが適切でない → 適切な選択・使用のための方法を示す

 

問題点4 話し言葉と書き言葉の混用 → 文体の違いを示し、統一する練習をする

 

問題点5 誤用以外のわかりにくさ…漢字とかなの表記の書きわけ、文章の長さ、読点の打ち方、文章構成など

 

問題点1:

既習の文法の間違い

→文章の中で正確に使えるように訓練する

 

 

例1 もし男の子が生まれる、祖父と同じ名前をつけようと思う。→生まれたら

 

例2 なぜなら、メールは手紙より便利だ。→便利だからだ

 

どちらも、呼応する表現が意識されていないために起きた間違いです。既習の文型であっても、このような間違いが中級以上の学習者の作文によく見られます。それはなぜなのでしょうか。

 

「あるテーマに沿ってまとまった文章を書く」という活動の中では、学習者の意識は、一つ一つの文型・表現よりも、「内容」に向けられがちです。

 

また、中級初期の学習者は複数の文型・表現を組み合わせて複雑な文を作ることに慣れていません。ですから、既習の文型であっても正確に使えないことがあります。

例1と例2は、意味機能は異なりますが、どちらも呼応する表現です。このように、既習文型・表現を再整理し、文章の中での適切な使い方を訓練していくことが、学習者の誤用を減らすうえで効果的です。

 

問題点2:

まとまった文章を書くときに初めて必要となる、指示詞や接続詞の間違い

→文章の中での使い方を指導する

 

例3 私にとってもっとも大切なものは家族だ。しかし、最近はあんなことを言うと変な人だと思われることも多い。

 

例4 パック旅行は、ホテルの選択肢は少ない。それなのに、格安だし準備も楽だ。

 

例3のような、文脈指示の「こ・そ・あ」の間違いも、中級以上の学習者の作文によく見られます。

「あ」系の指示詞は記憶指示なので文章の中には現れにくいのですが、「そ」系の代わりに使ってしまう学習者は多いようです。

文脈指示の基本は「そ」系であることを伝えることがまず大切です。

 

一方、「こ」系の文脈指示にも、後方指示の「こんな話を聞いた」や、まとめに用いられる「このように」のように、重要な用法があります。

例4の「それなのに」の後には筆者が違和感を抱いている内容が続くという制約があるため、「しかし」に置き換えなければなりませんが、どちらも逆接の接続詞であるため、学習者にとって使い分けは難しいようです。

 

指示詞や接続詞は、短文でないまとまった文章を書くときに初めて使われるものであり、長い文章で大切な役割を果たす「つなぎ言葉」です。中級以上で指導が必須の項目と言ってよいでしょう。

 

問題点3:

語彙や表現の選択や使用のしかたが適切でない

→適切な選択・使用のための方法を示す

 

例5 クレジットカードで犯罪することが増えている。→クレジットカードによる犯罪

 

例6 台風で大きな被害をかけられた。→被害を受けた

 

まとまった文章を書こうとすると、既習の語彙だけでは足りず、学習者は自分で辞書を引き、語彙・表現を探して使っていかなければなりません。

例5と例6のように、言葉を選択する際には品詞は何か、類義表現とどのように使い分けるのか、どのような言葉と共起するのかなどさまざまな情報が必要ですが、それを一つ一つ教師が取り上げて説明することはほとんど不可能です。

 

とすれば、辞書の活用のしかたや、辞書だけでなくインターネットなども利用して何重にもチェックする方法を指導し、学習者が自力で適切に語彙を使用できるよう促すことが必要です。

 

問題点4:

話し言葉と書き言葉の混用

→文体の違いを示し、統一する練習をする

 

例6 私の会社は有名じゃないけど、よいエンジニアがいっぱいいる。

 

「じゃない」「けど」「いっぱい」などは、くだけた話し言葉で用いる表現なので、文章で用いると不自然です。

「私の会社は有名ではないが、よいエンジニアが大勢いる」とすると不自然さは減ります。

 

また、もっと硬い文章にしたければ、「優秀なエンジニアを多く擁している」としてもよいでしょう。こうした文体の違いを多くの中級学習者は意識していません。

表現の文体差についての情報を与え、文章の硬さによって使い分ける練習も必要です。

 

問題点5:

誤用以外のわかりにくさ

…漢字とかなの表記の書きわけ、文章の長さ、読点の打ち方、文章構成など

 

学習者の書いた作文の中には、明らかな誤用はないものの、読みにくくわかりにくい文章があります。

 

こうした「わかりにくさ」の原因は何か、それを改善するために、日本語教育の視点でどのような指導ができるかということについては、また回を改めてお話ししたいと思います。