講師紹介 犬飼康弘 財団法人 ひろしま国際センター研修部 日本語常勤講師
『アカデミック・スキルを身につける 聴解・発表ワークブック』著者

第2回 構成を意識して「聞き」、「発表」する

前回の最後に、「メモ」の取り方には、どこにどのような情報が述べられているか、すなわち構成を意識しているかどうかが関わっているのではないかと指摘しました。

今回は、この「構成」を「聞く」ことから、それを利用し「発表」する部分に焦点を当ててみようと思います。

前回、メモを3段階に分けて取るようにしていることに触れましたが、その第3段階目が表現を確認していく「メモ3」です。

実際に学習者が取った、『聴解・発表ワークブック』第3課の「メモ3」を見てみましょう。

図1 「メモ3」の実例(第3課)

この学習者の「メモ3」には、右の方に「問題提起」「方向付け」「全体の予告」と記されています。
これは、授業時に表現と同時に確認をした「構成」を学習者がメモした結果です。
このように、発表に必要な「構成」と「構成を表す表現」を学ぶ部分が「メモ3」です。

「構成」を学ぶことの利点は幾つかありますが、第1回で触れたように、「構成」を意識することで、現在どのような情報について話されているかを聞きながら整理することができ、メモを取る際にも影響を与えているのではないかと考えられます。

もちろん、発表をする上でも、「構成」と「構成を表す表現」は重要です。
『聴解・発表ワークブック』には、「メモ3」の後に、同じ構成を使って「発表」の練習をするための練習問題が用意されています。

図2は、同じ学習者が第3課の練習問題に取り組んだ跡です。

練習問題は、図2に見られるように、吹き出しに「構成を表す表現」のヒントが既に記入されている「問題①」と、このヒントの記入が無く吹き出しだけの「問題②」(図3)が用意されています。 問題①のテーマは「コンビニエンス・ストアの今後」、問題②のテーマは「がんの告知について」です。

図2のの中には、「問題提起」や「方向付け」等を学習者が独自に考えて記入していきます。
この学習者は、「問題提起」「方向付け」を考えた際に、「全体の予告」もそれらに合わせて変えたいと考え、テキストに修正を加えています。

図2 練習(問題①)の実例(第3課)

この事例からも分かる通り、この練習問題に「正解」はありません。

の部分の内容も、テキスト自体に変更を加えた場合でも、論理的に筋が通っていれば、何の問題もありません。

図3 練習(問題②)

 

表現についても同じことが言えます。

図2および図3から分かる通り、練習問題の中には、ヒントとして表現が既に記入されている部分があります。しかし、その表現を使わなければならないというものではありません。表現が違っても、同じように構成を表すことができ、誤解無く伝えることができれば良いと考えています。

ただ、この図2を見て、学習者に1つだけ注意したことがあります。

それは、の中や変更した部分に、なるべく文を書かないようにし、メモ程度に止めてくださいということです。

学習者の中には、発表に苦手意識を持っていて原稿を書かなければ不安でしょうがないというタイプもいます。そのため、図2でも見られるように、しっかりと文を書き、それを読み上げるような発表をしてしまいがちです。

しかし、実際には棒読みの「音読」よりも、少したどたどしいと感じても、聞き手を意識して「話す」方が上手く聞こえます。
もちろん、練習すれば読んでも上手く発表できると思います。
とはいえ、大学や大学院の授業やゼミ等、頻繁にある発表すべての原稿を書き、練習をするのは大変ではないでしょうか。それに、仮に「この発表」が上手くできでも、専門分野で応用できなければ意味がありません。

第1回の「聞いてメモを取る」部分でも述べましたが、続けていく中で既有の知識をいかに使い「問題解決」に結び付けていくかがポイントになるのだと思います。
そのため、実際の授業では、問題のテーマにもよりますが、だいたい20分程度、長くても30分程度の準備時間で発表させています(クラス人数が多い場合は、グループワークとし、もう少し時間を長くすることもあります)。

また、こうした練習を通して即応力を身に付けていくことができます。学習者の中には、特に初期の段階で「もっと準備時間が…」という声も聞かれますが、この即応力は「質疑応答」の部分で、より重要な役割を果たしていきます。

そこで、次回では「質疑応答」の練習について述べたいと思います。