EF International Language Centers 教諭 金田さつき 

非漢字圏の学習者が初級のテストで合格点を取り(ここまで、かなり努力して)中級へ上がっても、中級レベルの学習では、彼らにとって必要以上の負担を与えることが多くありました。中級クラスで使用していた教科書にはルビがなく、非漢字圏の学生は文型は理解できても、例文も練習問題の問題すら読めず、漢字がわからない事で、授業についていくことができないのです。
 

彼らにとって授業は退屈なものになってしまったのではないか。ヤル気を失い反応がなくなってしまった学習者の表情をどうにか明るくしたい。学習者が興味を持って積極的に授業に参加し、時間を忘れて集中でき「今日の授業は楽しかった」と言われるような授業をしなければ。接客のアルバイトができるほど、日本語のコミュニケーション能力が高く、「話す」「聞く」ことが得意でも、「読む」「書く」ことが苦手、そんな非漢字圏の学習者に合った方法で楽しく中級日本語を勉強することができないものかと悩んでいたとき、『みんなの日本語中級Ⅰ』に出会いました。

メインテキストとして導入する中級教材は文型を読解文で学習するものが多く、読解中心の授業になりやすいですが、『みんなの日本語中級Ⅰ』では、学習した文法事項を「読む」「書く」ことで練習するだけではなく、非漢字圏の学習者が得意とする「話す」「聞く」ことで練習し、身近な話題に置き換え発展練習をすることもできます。また、学習者が興味を持ち、自ら話したくなるような話題へと教師が持っていくこともできます。教科書を学習者と読んで終わる授業になることなく、教科書から離れた授業へと持っていくことができます。

各課にある「チャレンジしましょう」は、その課に出てくる新出の学習項目を教科書内の「練習」をした後、自分の身近な話題に置き換えて、学習者それぞれの立場に合わせ実践するコーナーで、ここでは学習者自身に必要な日本語、使える日本語を学ぶことができます。

例えば第2課「話す・聞く」の「チャレンジしましょう」では、「何が書かれているのかわからない紙を持ってきて、周りの人に聞いてみましょう。例:玄関のポストに入っていた『お知らせ』」

となっており、実際に学習者が自宅のポストに入っていた郵便局の不在連絡票を使用して、不在連絡票にある漢字の読み方とその意味、さらにその対処方法を授業内で知ることができます。日本語学習にとどまらず、日本での生活に役立つ実践的な知識と、新しい文型が実際に使えたという達成感も得られました。
 

さらに「チャレンジしましょう」を利用して、学習者が興味を持っていること、伝えたいことについて、調べて発表する時間を持ちました。テーマは自分の国の観光案内や国の料理のレシピ、自分の国に伝わる昔話、好きな本や映画、興味を持ったニュースなど自由に選んでもらいました。

テーマについては授業時間に調べる時間を持ち、パソコン、携帯電話などを使い日本語で情報検索したり、教師が事前に準備した資料も使い、プレゼンテーションのための資料を作成し発表してもらいました。作業中は休み時間も忘れ、日本語を使ってクラスメートと話し合い、学習者同士、学習者と教師との距離もぐっと縮んだように思います。

「チャレンジしましょう」を活用し、漢字が読めないことで萎縮していた学習者は自信とヤル気を取り戻したように感じました。「チャレンジしよう」の活用と、その発展練習は、そこまでの学習の積み重ねのまとめとなり、とくに非漢字圏の学習者にとっては、口頭でのアウトプット量が増えることで、日本語学習へのモチベーションを上げることに効果的だったと思います。

また、非漢字圏の学習者が苦手な読解については教科書の中にある「読みましょう」の本文を使いました。すべての漢字にルビがついていることと、分量も無理なく読める長さで、数日間に渡って解説することなく進めることができます。
全ての漢字にルビがついているので、本文を声を出して一緒に音読したり、学習者に輪読させても途中で漢字が読めずに授業が止まってしまうこともありませんでした。

苦手な読解を克服するために、「読みましょう」のほかに、多読の時間を毎日20分取りました。この時間はただ学生が黙読をする時間とし、教師が説明しなくても理解できる簡単な本を毎日読みました。

書く授業ですが、作文対策として、作文の時間のほかに、毎日スピーチの時間を取りました。スピーチをする学生はスピーチ原稿を書き、スピーチを聞いた学生は感想などを手紙形式で書いて渡しました。スピーチをした学生は、スピーチの感想文を嬉しそうに読んで保管していたのは新たな発見でした。

1日の授業時間は45分の授業を2コマで『みんなの日本語中級Ⅰ』を学習し、後半の2コマはスピーチ、作文、読解、漢字の授業。6ヶ月で1課~12課を終わらせるスピードでスケジュールを組み、3ヶ月ごとに進捗スピードを調整して、可能なかぎり中間テストなどの復習テストを行いました。

非漢字圏の学習者は、『みんなの日本語中級Ⅰ』を使用するようになってから
積極的に授業に参加し、定期テストで、合格点をとり『みんなの日本語中級Ⅱ』クラスへ進むことができました。