東京三立学院 副校長 及川信之

この春の『日本語能力試験模擬テスト』シリーズ第3弾の刊行は、これまでの2レベル(N1、N2の全4冊)を利用してきた当校にとって歓迎すべきことでした。当校は進学コースの学校で、どちらかといえば日本留学試験への対応授業が中心であるため、日本語能力試験受験者にはこの模試の使用が受験前の大切な力試しとなっているからです。

語彙や機能語など日本語能力試験受験者のレベル(N1・N2)に分けて対策授業をおこなっている学校も多いと思いますが、定着を確認する小規模なテストは学内で対応できても、やはり試験が近づくと本番さながらの模試が必要なのではないでしょうか。全体のボリューム、時間配分、解答スピード、そして緊張感、どれもが通常枠の授業内ではなかなか体感できないものです。ましてや学習者が自宅で取り組むとなると極めて難しいと思われます。

では模試を受けさせればいい、ということになるのですが、学習者にとって一番いいかたちの模試とは何かを考えてみましょう。

まず「費用が安いこと」。学習者負担であれば当然です。

二つめは「本番と同じ時間と分量でチェックができること」
模試タイプの問題集は数多くありますが、前述のように学習者個人で行うのは難しく、教室のような会場で行う必要があります。

三つめは「模試受験後、解説が受けられること」
得点や不正解箇所がわかるだけでなく、なぜその解答になるのかということを受験者であれば知りたいはずです。

そして四つめは「受験者自らが復習できること」
特に聴解に再度取り組めることが重要なのですが、外部の模試などでCDが配られることはありません。

こう考えると理想の模試を受けさせるのは不可能なように思えますが、これを可能にしたのがスリーエーネットワーク『日本語能力試験模擬テスト』(以下『模擬テスト』)だったのです。一見日本語能力試験1回分の問題をそのまま本にしただけのようですが、活用の仕方で理想の模試が実施できます。当校では2年前からこれを学内実施の模試としておこなっており、今年はN1・N2とも3巻目の使用を決めています。

では、どのように学内模試を実施しているのかをご紹介していきましょう。

まず日程を決め、受験希望者を募ります。そして人数分の『模擬テスト』を発注し受験料を集めるのですが、当校の受験料は945円。つまり『模擬テスト』の税込価格と同じなのです。模試としては格安ですし、終了後は当然CD付きの本そのものがもらえるわけですから、この段階で前述の条件一つ目と四つめはクリアです。

そして当日。教室を準備し本番試験とほぼ同じ時間枠で模試を行うのですが、できるだけ緊張感が持てるように、監督教師はいつもの笑顔を封印して対応します(笑)。これで二つめの条件にかなっています。

『模擬テスト』は解答やスクリプトを除いたテスト部分がプルアウトタイプになっているのが特徴で、これが大変都合がいいのです。※注

最初に『模擬テスト』を渡して説明した後、受験者本人に問題冊子(テスト部分)を抜き取らせ、残った本体を各自が鞄などにしまえば模試の準備は万端です。あらかじめ問題冊子を教師が抜いておくより、新品の状態で一度手元に配られたほうが受験者の気持ちも引き締まるようです。なお、マークシートは印刷されていますが、使いやすさを考えて、A4版のものを別に用意して配付しています。

実施後はN1・N2ともそれぞれ「ポイント解説」を教師が行います。受けっぱなしにならないのが学内で行う最大のメリットで、受験者たちからの質問も次々と飛び交います。現実的には1時間ほどの解説のため、全設問を振り返ることはできません。それでもキーワードや着目部分、選択肢の消去法など正答を導く解法ポイントをシンプルに伝えていくことで、逆に集中した振り返りができているようです。当然教師は模試の全設問を把握していますから、翌日以降の質問にも即座に対応できます。こんなことができる模試は一般にありません。三つめの難条件も学内で実施すればこうしてクリアできるのです。

このように当校ではスリーエーネットワーク刊『模擬テスト』を利用することにより、学内で理想的な模試を実施しています。もちろん日程調整や教師の負担、経費は必要ですが、学内でコンパクトに行うことがなにより学習者のメリットとなっているのです。教材は何を与えるかよりどう効果的に活用するか、学校としてそれを考えることが大切なのではないでしょうか。

<N1模試時間割(例)>
9:00
9:10
11:00
11:10
12:15
12:25
13:30
 説明
「言語知識」~試験
休憩
「聴解」試験
試験終了・休憩
ポイント解説
終了

 

※注)『日本語能力試験N1模擬テスト〈1〉』『同〈2〉』『同〈3〉』『同〈4〉』、『日本語能力試験N2模擬テスト〈1〉』『同〈2〉』『同〈3〉』『同〈4〉』の問題冊子(テスト部分)は問題冊子1(言語知識・読解)と問題冊子2(聴解)の2冊あります。
『日本語能力試験N3模擬テスト〈1〉』『同〈2〉』の問題冊子は一冊にまとまっています。(2020.3.18 スリーエーネットワーク追記)