講師 鈴木健司 学校法人大原学園 大原日本語学院 主任教員
*ご所属・肩書はご執筆いただいた当時のものを記載しています

○はじめに
当校では、一昨年度までは非漢字圏学習者(ベトナム スリランカ タイ ネパール モンゴルなど)も漢字圏からの学習者(中国 台湾 韓国)と同じクラスで初級の学習を続けてきましたが、非漢字圏の学習者の増加が見込まれることから、昨年度末より非漢字圏学習者向けのコースを新設し、そのメインテキストとして『日本語初級大地』を使っています。
進学を目的とした留学生の日本語コースで、学生たちは無理なく日々日本語学習をつみ重ねています。

○『日本語初級大地』を選んだ理由
非漢字圏の学習者にとって漢字語彙は習得の難しいところです。
そのため入門、初級期ではなるべく文字に頼らない学習にし、漢字語彙の習得は確実に読める、使えることを目指し初級教材に『日本語初級大地』(以下『大地』)を選びました。
『大地』の場合、練習も多くがイラスト化されており、漢字かな表記に圧倒されにくく、学習をスムーズにすすめることができます。
『大地』を使ったこのコースは9か月間で初級(『日本語初級大地1』『〃2』)を終了できるように組み立ててみました。
3か月ごとに第Ⅰ期(1課から15課)、第Ⅱ期(16課から30課)、第Ⅲ期(31課から42課)とすすめています。

○評価について
『大地』を使った初級コースの評価は3課に1回のテストを行うことと、9か月で3回の定期テストで行っています。
3課に1回のテストでは語彙(約30%)、表現(約10%)文法の定着確認(文完成含む、約60%)、定期テストでは文法・読解・漢字語彙ペーパーテストに加え、聴解テスト、また口頭能力もテストしています。
口頭能力テストは1人5~6分程度行い、短文でこたえる質問に対しては、適切に理解して答えているかどうか、正確さをチェックし、また長く話し、説明したり描写したりして答える質問をしたりしています。

○漢字の学習について
教科書での学習以外に漢字250字を学習、旧日本語能力試験の8割程度です。
教室で勉強、教師が漢字シートを作成しています。一定数の漢字を習得したら、教室内でミニテストを行ったり、学生同士で漢字の読み書きの問題を出し合って、誰が一番できるか競わせたり、クラスのメンバーの構成や理解、運用の定着度を見ながら、積極的に漢字に触れる機会をつくり、できるだけ自分から使いたくなる工夫をしています。

○作文
『大地』のメリットの一つに「短作文」があります。
課の提出文型等に合わせ、課によって「短作文」をするところがあります。当校ではそれを用い、第4課から短文づくりをしています。
教室で書く場合と宿題にする場合がありますが、中級に進んでいくことを考えるとなるべく早く書く練習を始めたいと考えています。

○日本語学校での留学生活に深くかかわる語彙も学べる
当校で『大地』を使うメリットは他にもいろいろありますが、そのひとつに語彙があります。
推薦状(15課)などの進学に関係した、進学を目的とした学生にとって近い将来必要なことばなどが比較的多く提出されていることです。
日本語学校から高等教育機関に進学することを考えたときに、出願手続き~入学試験、または合格後~進学後に学校生活で使う言葉、普段使うことが多くなったIT用語が教科書に入っており、これらは中級にもつながる言葉で、できれば中級に入るまえに学習しておきたいものです。

その他にも長所がありますが、今回は簡単ですが『日本語初級大地1』の第13課で行ったインタビュータスクをご紹介します。

○大原日本語学院での活動例:第13課「使いましょう」
実施時期は2014年の1月下旬でした。
1月に入学した初級前期の非漢字圏のクラスの学生は、漢字圏の中上級の学生にインタビューをしました。
・「使いましょう」を使ってインタビュータスク
・「来日の動機や将来の計画をインタビューして聞き取る」

『大地1メインテキスト』第13課の『使いましょう』(総合的練習問題)(p.86)には、以下のようなやり取りの練習が提示されています。
実際にインタビュータスクをする前に、これを使ってインタビューのやり方を練習します。

A:(B)さん、いつ日本へ来ましたか。
B:(5年)まえに来ました。今、(みどり大学の4年生)です。
A:(B)さんは来年どうしますか。
B:わたしは(大学院に入り)たいです。
A:(大学院で何を研究したいですか。)
B:(ロボット工学を研究したいです。)
A:そうですか。(頑張ってください。)

まず、これを使ってクラス(初級)内のメンバー同士で応答練習をしてインタビューのやり方を学びます。
次に、近くの教室で勉強している中上級クラスの漢字圏の学生(中国・台湾・韓国人)に協力をお願いしてインタビュータスクをします。
インタビュータスクをする前には、テキストにある質問項目以外に何を聴きたいか話し合い、インタビューする内容をまとめました。

次は、このときに行ったインタビュータスクのやり取りの例です。
聞き手(A):1月入学の初級前半の非漢字圏クラスの学生
話し手(B):中上級の漢字圏クラスの学生。3月卒業予定

<完成したインタビュー項目とシナリオ>
A:失礼ですが、お名前は。
B:・・・・・・・です。
A:すみませんが、名前を書いてください
  (書いてください・・・教室用語で導入済)
あ、ひらがなもお願いします。
B:(漢字で名前を書いてルビを振る)
A:(B)さんのお国はどちらですか。
B:・・・・・・・・です。
A:(B)さん、いつ日本へ来ましたか・
B:・・・・・・に来ました。
A:どうして(第9課)日本へ来ましたか。
B:・・・・・・・ですから。
A:ああ、そうですか。
  (B)さんは、4月からどうしますか。
B:(大学に入り/大学院に入り/専門学校に入り/国へ帰り)ます/たいです。
A:(大学/大学院/専門学校/国)で、何を(研究し/勉強し)たいですか。
B:・・・・・・・・を(研究し/勉強し/働きetc…)たいです。
A:すみませんが、書いてください。あ、ひらがなもお願いします。
B:(書く)
A:何歳まで働きたいですか。
B:(・・)歳まで働きたいです。
A:日本語の勉強はどう(第7課)ですか。
B:(難しい/簡単/文法が難しいetc…)です。
A:ありがとうございました。

話し手は容赦なく中級の語彙、N2・N1の文法を使って返答してきます。
聞き手は聞き取りに加え、さらにメモを取っていないと話し手に厳しく指導されます。
インタビューを通し、互いに一生懸命に話し、聞き取り、共同で学習している様子がうかがえました。

聞き取ったインタビューは内容をまとめた後、中上級クラスに再度赴き、学生たちの前で発表しました。

そこで中上級の学生も自分が答えたことが再現できているかどうかを確認、自分が言ったことが伝わっていなければ、質問して再確認したりしていました。

初級の学生にとっては冷や汗ものですが、中上級の学生とのやりとりを通し「将来、自分もこのようになるぞ!」と目標が明確になるというメリットもあったようです。

中上級の学生たちが、ちょっと前の自分たちの姿を懐かしみながら、されど手を緩めることなく“胸を貸して”やっている様子を見ると、教壇に立つものとしてはとてもほほえましく思えました。