王子国際語学院 専任講師 伊東洋一郎

昨今、ベトナムやネパールなどからの留学生の増加によって、漢字に馴染みがない非漢字圏からの学生の漢字と語彙の指導についてご苦労をされている先生も多いことと思います。
そこで、今回は私が勤務している学校では、漢字の授業でどのように『みんなの日本語初級 第2版 漢字英語版』を使用しているのかを紹介いたします。

まず、当校の学生の国籍は中国人とベトナム人で7割前後を占めており、次いでネパール人、バングラデシュ人、スリランカ人、モンゴル人となっております。
よって、クラス構成の半数以上を占めることになる非漢字圏の学生の学習についてどのようにアプローチしていくのかが学校全体の課題として挙げられてきました。

そこで、昨年度からこの『みんなの日本語初級 第2版 漢字英語版』を使用することとなりました。
このテキストを使用する最大のメリットは非漢字圏学習者に対して、1コマあたりの学習漢字数が調整しやすく、さらに学習した漢字語彙の定着と増加が図れるという点です。

これから、その使用方法について説明します。

授業の際に学生に用意させるものは

①テキストの『みんなの日本語初級 第2版 漢字英語版』

②本書巻末挟み込みの「参考冊」

③市販の漢字練習用ノート

の3点です。
漢字練習ノートはマス目の大きいもので、マス目だけのものがいいです。

このテキストを進めるにあたって大切なことは『みんなの日本語初級本冊』の進度と合わせるか、本冊でやった課をやや後から追うようにして使用するという点です。
このようにすることで、本冊に出てきた漢字語彙をこの本で再び学習し直すことができ、漢字語彙とさらには文型の定着にも効果が見られます。

以下に授業の流れをご紹介します。1コマ45分です。

1: その授業で学習する漢字の提示(クラスのレベルに合わせて学習する漢字数を調整)
2: 提示漢字の読み方を確認。
テキストの各ユニットには学習漢字を使った語彙の読み方を確認するコーナー「読み方」があります。
『初級Ⅱ』には「読み方A」「読み方B」があり、「読み方B」は既習漢字の新しい読み方になっているので「読み方B」も要確認。
3: 教師の空書、板書に倣い学生は漢字ノートにその字を複数回練習で書く。
その際に教師は「止め」「はね」の注意点や部首について説明。画数を確認。
4: 教師が漢字カード(教師が準備する)で提示した語彙を学生は巻末の参考冊から見つけ、ノートに練習し、意味を母語で書く。
また、その他にも生活の中で目にした漢字について学生から発言があった場合はクラス内で共有し漢字語彙を増やしていく。
教師は学生のノートを見回り、個別に指導していく。
5: 2~4の繰り返しの後、テキストにある「使い方」で読み方や、文章内でどのような使われ方をしているか確認。
6: ひとつのユニットが終わる日は、テキストの「漢字博士」を使って漢字の復習。
その他、各ユニットの「読み物」で読み方や、文章内でどのような使われ方をしているか確認。時間が余っていれば、学生に既習漢字を板書させ全体で確認。
7: 次の授業で巻末のクイズを使って小テスト。
8: ユニット毎にあるわけではないが、「漢字忍者」を使って語彙を広げる。
9: ある程度学習が進んだらタームテスト実施。

以上が当校の漢字授業の主な流れです。この流れの中で当校が最も重要視しているのが「4」の作業です
このテキストに出て来る語彙は『みんなの日本語 本冊』で既習のものであり、繰り返しの学習によって語彙と漢字の復習と定着が図れます。
さらに、参考冊から使用頻度の高い語彙を提示することによって、学生が「調べて覚える」という学習工程を進むことができます。

もちろん、学習漢字以外に学生から生活の中で目にした語彙の提示があれば、それをクラス内で共有。単調になりがちな漢字授業でもクラスでの会話につながっていきます。
このテキストを昨年度を通じて使用したところ、『初級Ⅰ』であれば284の3級漢字が、『初級Ⅱ』であれば69の3級漢字と247の2級漢字が学習でき、『みんなの日本語初級』の学習が終了した後の学習にもスムーズに移行できたと感じております。

参考までにお読みいただきたいのですが、昨年度の4月に入学した学生が秋には『みんなの日本語初級 第2版 本冊』『同 漢字英語版』のどちらの学習も終わり、勉強内容も初中級から中級へと向かい、12月のJLPT受験を迎えることができました。
20人クラスのうち、非漢字圏の学生15名中6名がN3に合格できたのは、このテキストの学習の最大の効果といえます。

また授業で市販の漢字ノートを使う目的は、漢字を書くだけの授業ではなく、教師の話をしっかりと聞き、空書や板書を見て口頭でやりとりをしたりする中で、学習者が生活の中で目にした漢字や語彙をきっかけにしたテーマについて話し合うような参加型の授業にしたかったことにあります。また市販の漢字練習ノートはマス目以外にはなにも書いてないので、学習させたい漢字を選び、練習させやすいです。

授業に先立って教師が学習する漢字を選び、漢字カードをつくります。15人前後のクラスでも字がはっきり見えるサイズです。
授業では

①学習者に漢字カードを提示し、読み方を確認

③使い方の学習/文をつくるように促す

②漢字練習ノートに書く

④時間があれば学習者が板書する

というように進めます。
漢字カードをきっかけに、教師や学習者のやりとりが生まれます。
学習者がひたすらノートにかじりつくような授業にはしたくありません。
漢字を覚えるのはもちろん、教師や学習者同士のやりとりの中で学習したことを共有できるような授業にしていくのも私の目標です。

最後に実際に授業で使用している漢字カード、板書例、学生が使っていたノートの画像を載せます。
この記事が日本語教育業界の発展に少しでも役立つものになれば幸いです。

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書き方、書き順を板書
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教師が準備する、語彙カード
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漢字練習ノート 漢字にふりがな、送り仮名をつける 母語で意味を書く
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学習した漢字を使って単語を書いたり、文づくりをする