山科美智子(『TOEIC® L&R テスト リスニング 解き方のスタートライン』共著者)

TOEICに挑戦する学習者がまず目標とするのは、600点の達成です。この600点というスコアは、就職のために、あるいは大学によっては進級や留学の要件として提示されることも多い、いわゆる壁越えの点数となります。長年にわたり大学や短大でTOEIC科目を担当してきた私たちは、どうしたらTOEIC初心者が600点という壁を越えられるのか、という課題に向き合ってきました。その経験の中から編み出した、アクティブラーニング型の授業を再現したのが、2021年3月に出版された『TOEIC® L&R テスト リーディング 解き方のスタートライン』です。そして本書は、アクティブラーニングの理念をそのままに、リスニング編として誕生いたしました。
初心者がTOEIC®テストに対応できるようなリスニング力を身につけるためには、どんな訓練をすべきかを根本から考え、エクササイズを5つのステップに分けてシステム化しました。そして、初心者に寄り添った懇切丁寧な解説と、スキルを定着させるためのこだわりの音読ページを設けています。

本書の特徴

1. 聞き取りポイントの詳しい解説

本書ではPartごとにいくつかの章に分けて、大切なポイント3つを「ナビポイント3ヵ条」に示し、聞きどころを詳しく解説しています。例として、Part 2の「WH疑問文への応答 直球編」のページをご覧ください。イラストを使って初心者でもわかりやすいように解説しています。

Part 3、Part 4の会話や説明文問題では、流れを追って内容を聞き取る必要があるので、会話や説明文のどこにどのような情報が述べられるのか、それを聞き取るための目印になるフレーズや単語などを示しています。次の例をご覧ください。

2.5ステップのエクササイズ

各章の問題は、ただ解くだけではなく、5つのステップを踏んでリスニングスキルの定着を促すようにシステム化されています。

①【Words & Phrases】出題される単語やフレーズの音声を聞いて、リピート練習をする。知らない単語は聞き取れないので、まず単語の意味と音を習得する。
②【解こう】TOEIC問題を自分で解いてみる。習ったばかりの単語やフレーズが聞き取れているかも確認できる。
③【聞こう】解いた問題のディクテーションをしながらスクリプトの穴埋めをする。内容理解のためのキーポイントの単語やフレーズが抜かれているので、それらが聞き取れているか確認する。
④【ナビクイズ】設問を解くときに、どこに注意して聞けばいいのか、クイズを解きながら「解き方の公式」を理解する。
⑤【音読】解いた問題を音読することで、正しい発音と①~④で学んだリスニングスキルの定着を図る。

以下は、Part 2応答問題の例題の一部と解答解説です。①~④のエクササイズの例としてご覧ください。

解答解説では、【解こう】【聞こう】【ナビクイズ】について、正解/不正解の理由や聞き取る目印となるフレーズや発音が詳しく解説されています。

3.発音のわかりやすい表記

初心者は、英語の音をあるがままに捉えず、日本語のフィルターにかけて、日本語風に歪曲して捉える傾向があります。例えば、documentは「・キュ・メント」という3つのリズムで、かつ[dɑ]にストレスが置かれ、[t]の音が非常に弱く発音されますが、これを日本語風に「ド・キュ・メ・ン・ト」という5つの平板なリズムの音として認識してしまうと、documentという単語は知っているのに聞き取れない、という結果になってしまいます。
日本人は日本語の音のシステムを使って聞いたり話したりしていますから、いきなり違う音のシステムをあるがままに聞き取りましょう、と言われてもなかなか難しいのが現状です。
そこで本書では、強弱リズムや音の連結と脱落など、英語の発音の特徴について解説するだけではなく、それをわかりやすく具体的に学べるように、リピート練習する文の下や音読ページにカタカナやスラーなどの記号を表記しています。

英語の音をカタカナ表記することに関しては、正確に英語の音を表記できない部分があるため、賛否両論があります。しかし、そういったことを差し引いても、初心者に、思い込んでいる音と実際の英語の音とは大きな隔たりがある、ということを目で理解していただくために、Part 1の章の一部と、Part 1、2の音読ページで、カタカナなどを使って発音を表記するという方法を用いています。

4.スキル定着のための音読ページ

本書の最後には、こだわりの音読ページが設けられています。「発音できない音は聞き取れない」という理念のもと、ネイティブの音声をまねて発音できるようにすることで、リスニングスキルを定着させ、さらに伸ばすということが音読の目的です。
①音声を聞いてモノマネ感覚でリピート→➁自分の発音をスマホで録音して聞く→③お手本に近づくように回数を記録しながら繰り返し練習、の手順で、各章の例題や問題として出題されたスクリプトを音読します。
Part 1、2の音読ページは、練習すべきポイントがわかりやすいように、音の連結はスラー、強く発音する音は太字、弱く発音する音は薄いグレーの文字で示しています。そして、発音の補助としてカタカナ表記が文の下に書かれています。

Part 3、4の音読ページでは、カタカナ表記がなくなりますが、音の連結、強く発音する音、弱く発音する音をPart 1、2と同様に示しています。それに加え、意味の固まりで区切って読むスラッシュリーディングができるように、スラッシュごとに切った音声も通常の音声とともに収録されています。


本書は「TOEICの問題を解く」ということだけにとどまらず、至る所に発音できて聞けるようになるためのスキルアップのはしごがかけられています。英語が苦手という初心者でも取り組みやすいように、各章の冒頭には「解きリス」君がさまざまなポーズで章の内容を示してくれます。そして、単語やフレーズのレベルも600点を取得するために必要かつ十分なものに厳選されています。600点を効率よく達成したい方、本物のリスニング力を身につけたいという方の独習書として、また先生方の授業のテキストとして是非ご活用いただければ幸いです。

山科美智子先生のプロフィール
慶應義塾大学文学部卒。San José State University大学院言語学専攻。The College of New Jersey大学院教育学修士。元埼玉女子短期大学国際コミュニケーション学科准教授、中央大学・学習院女子大学非常勤講師。現在シカゴ在住。

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