渋谷奈津子(『テーマ別 ミニ模試20 TOEIC® L&Rテスト リーディング』共著者)

■苦手意識の根強いリーディングセクション

TOEICテスト対策講座の参加者にうかがうと、リーディングセクションへの苦手意識が根強いのを感じます。リスニングセクションと比べると問題の英文量が多く、すべての問題を見るのに時間が足りなくなるために、解き残したまま終了時刻を迎えるといった苦い経験がある人も多いでしょう。

『テーマ別 ミニ模試20 TOEIC® L&Rテスト リーディング』は、TOEICの500~600点レンジに達した学習者の皆さんが、リーディングセクションの苦難を乗り越え、さらなる高スコアを手にすることを目標に作成された教材です。

■本書の特徴

TOEICでは、本文のストーリーや出題形式において、ある程度決まったパターンがあることが知られています。本書では、「修理をする」「出張をする」などテストで必ず登場する20のテーマをとりあげ、テーマごとにミニ模試形式にまとめました。模試の問題には、TOEICの中だけでなく、普段のお仕事で頻繁に遭遇するであろう場面が展開します。各テーマに関連する重要語句が何度も使用されているため、問題を解いて復習するうちに、だんだんとビジネスシーンで使われる英語表現に慣れていきます。本番のテストでは似たようなストーリーが出てくるわけですから、初めて見る英文でも、ある程度展開を予測しながら読むことが可能になるでしょう。そうすると読解のスピードが速まり、問題に解答する時間的、精神的余裕が生まれることが期待できるので、本来取れるべきスコアを取りこぼすことが少なくなるはずだと私は考えています。

1つのミニ模試は15分ほどで解ける分量です。復習時間を含めても1~2日で無理なく学習できる長さになっています。TOEIC対策に、ビジネスシーンでの英語の強化に、ぜひご活用ください。

■お勧めの使い方

TOEIC対策として様々な勉強法がありますが、要は「問題を解いて十分復習する」を愚直に繰り返すことに尽きるのではないでしょうか。本書の使い方の一例をご紹介します。ご参考にしていただければ幸いです。

【解く】

初見の文章を読んで解く体験をするために、まずは1章分の問題を自力で解いてみましょう。

(1)所要時間を計って解く
問題編各章の扉には、制限時間が書いてあります。タイマーをセットして制限時間内に終えるつもりで、解いてください。
本書はマークシートアプリのabceedに対応しています。手軽に採点したい方はアプリをダウンロードしてお使いください。紙のマークシートを使いたい方は、本の最後にありますので、コピーして使ってもOKです。いずれの場合も、問題用紙に下線を引いたりメモ書きをせずに解くことをお勧めします。実際のテストでは問題用紙に何も書き込むことができないため、本番に近い雰囲気で解く練習になるからです。また、書き込みをしなければ、後から解きなおしをするときにも便利です。

(2)最後まで解ききる
すべての解答を終える前に終了時刻がきてしまったら、どこまで解いたかメモをしておき、そのまま最後まで解答を続けてください。解き終わるのにかかった時間もメモしておきましょう。後日解きなおしをしたときに、所要時間が短くなり上達度を実感できるはずです。

(3)解説編の和訳を見ながら解く
これはオプションです。解説編の冊子には、問題が和訳とともに再掲載してあります。少しでも自信のない英文や問題があれば、正解や解説を見る前に、英文と和訳を見ながらもういちどチャレンジしてください。解説に頼らずに答えを自分で探すと、英文や解法が記憶に残りやすいからです。

【復習】

全問解けたら、答え合わせをして解説に目を通します。全問正解した方も、間違えてしまった方も、ここからが勉強の始まりですよ! 「復習」と一言で言っても、①正解・不正解の理由を確認する、②問題文の英文(単語まで)を理解する、③何度も英文を読む、④時間を置いて解きなおす、という一連の学習が効果的です。問題冊子と違い、解説冊子には気づいた点などをどんどんメモ書きしていきましょう。

(1) 知らない単語や表現が多かったとき
英文を何度も読み直して語彙力をアップしていきましょう。本書に出てくるすべての単語や表現は、見た瞬間に意味がわかるのが理想です。PART 7では、本文よりも設問や選択肢に使われる単語の方が重要度が高いと思ってよいでしょう。各問題には語注もついていますが、英単語と和単語の突き合わせで終わるのでなく、英文全体を読み返し、その場面の中での使われ方を意識してインプットすることをお勧めします。少し面倒ですが、自分で辞書を引きなおして他の例文を加筆すると、忘れにくくなります。すぐに覚えられなくても大丈夫。重要語であればあるほど、どこかで同じ単語に遭遇しますから。

(2)文の意味がとれなかった
1つ1つの単語は見たことがあるはずなのに、文の意味がとれなかったときは、単語の正確な意味や語法を知らなかったり、品詞(名詞や動詞など)を取り違えたり、それが原因で主語・動詞・目的語といった文の構成が見抜けなかった可能性があります。長い文が苦手な方は、意味のカタマリごとに区切りながら、繰り返し速く読む練習を取り入れましょう。接続詞、関係詞、前置詞、to不定詞などの前でスラッシュを引くと、意味のカタマリごとに分けられることが多いです。英文の構成を理解するには、『TOEIC(R) L&Rテスト 英文読解力のスタートライン』(高橋基治・塚田幸光共著/スリーエーネットワーク)が参考になります。

(3) 選択肢のワナに引っかかったとき
テストで手ごたえがあったのに、スコアが思ったほど取れていなかった、というもったいない経験をされた方が多いかもしれません。本文や選択肢の読み込みが甘いことが原因のひとつとして考えられます。
例えば、PART 7で本文に合う選択肢を選ぶ問題で、本文中の「アパレル工場の拡張工事をする」とある部分を根拠に、「工場の従業員を増員する」が合致する内容と思い込み、誤って結びつけてしまうようなケースが考えられます。「拡張する」と「増員する」が似たようなポジティブな響きがあるため、両方が同じことを意味すると(特に時間に追われているテスト中は)早とちりしてしまうかもしれません。中上級者と上級者を振り分ける問題には、そんな魅力的な不正解選択肢のワナが仕掛けられています。本書の問題執筆者Ross Tullochさんは、TOEICによくあるワナを熟知していて、この模試にも随所に仕掛けてくれました。間違えたときも正解したときも、正解の根拠を丁寧に本文から見つけ出し、TOEICの手法に慣れていきましょう。

(4) 全問正解したとき
おめでとうございます! さらに力をつけるために、問題を見直しましょう。
まず、まぐれの正解でないことを確認するため、1問ずつ正解の根拠を自分で説明してみましょう。解法が確認できたら、次は英文のインプットです。PART 5と6の問題では、選択肢を隠して空所補充できるようにしましょう。PART 7は本文の内容を、「なんとなく」ではなく論理的な日本語にできるか書き出してみるのもよいでしょう。思い違いをしている語法に気づくかもしれません。さらに負荷のかかるトレーニングとして、和訳を見て英文を再現する方法もあります。高得点を狙うには、英文の詳細な部分まで意味を正確に把握できているかが、勝負の分かれ道になることがあります。動詞ひとつとってみても、自動詞として使われているのか、他動詞として使われているのか、など丁寧に英文を観察してみましょう。TOEICの点数アップにつながるだけでなく、自分が発する英語の精度も上がります。

みっちり復習した問題を、2週間や1か月など少し時間を置いてから、もう一度解きなおしてみてください。たとえ「これは一番上の選択肢が正解」と覚えていても、正解の根拠を確認して解き進めてください。何周か解きなおせば、ストーリーや文の意味を思い出すことができ、どの単語がどの意味で使われているかも説明できるくらいインプットされているはずです。

■好きなジャンルの英文を毎日読んで読解力アップ

あくまでも私の感覚ですが、TOEICでは回を追うごとに、従来のテスト傾向や表面的な攻略法を裏切る問題が少しずつ増えているようです。TOEICに頻出する形式やストーリーに慣れることも大事ですが、英語処理能力自体を上げておかないとスコアが上がらないのは、言うまでもありません。
リーディングセクションの英文量は膨大です。PART 7の本文だけでも3000ワードほど、これは英字新聞1ページ強をカバーする量です。時間の迫る中で大量の英文を読み、考え、解答する作業をよりスムーズにこなすには、大量の英文を読み続ける力が不可欠です。そしてその力は比較的簡単に身に付きます。
新聞の記事1本分のまとまった英文を読むことを習慣づけましょう。難しいと思ったら300ワードほどの分量からスタートしてもいいのです。電車の中、昼休みなど毎日時間を決めると続けやすいですね。TOEICのコンテンツがおもしろくなければ、自分が楽しいと思えるものを探しましょう。好きなジャンルの英文ならば、新聞でもウェブサイトでも本でも、なんでもよいと思います。ちなみに私は最近、世界の日本酒事情に大変興味があるため、英語で書かれたお酒関連の資料やウェブ投稿をよく読みます。好きなテーマであれば楽しいですし、楽しんで読めるものは長い時間読み続けることができ、記憶にも残りやすいと感じます。

皆さまが目標のスコアを突破し、目標スコアの向こうにある未来に近づくことを陰ながら応援いたします!

渋谷奈津子先生のプロフィール
事務機器メーカーに勤務後、コロンビア大学ティーチャーズカレッジにてTESOL(英語教授法)修士号取得。学習者が潜在的に持つ発信力を高めるための指導法を研究中。主な著書に『TOEIC® L&R テスト いきなり600点!』(アルク)、『出るとこ集中10日間! TOEIC®テスト 読解編』‎(西東社)など。

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