中村信子(『TOEIC(R) L&R リーディング 解き方のスタートライン』共著者)
TOEICスコアを就職活動に活かしたいと願う学生をサポートするために、多くの大学ではTOEIC科目が設けられています。ここでは、『TOEIC® L&R リーディング 解き方のスタートライン』(中村信子、山科美智子 著)の大学での授業実践例とその効果をご紹介したいと思います。
1.600点で何が変わるのか?
TOEIC® L&Rテストを主催するIIBCのサイトでは、「まず600点を目標に」と述べられています。企業が新入社員に期待するスコアの平均値は535点。頭1つリードしてアピールするためには、600点以上が必要です。
※1 スコアを自己PRに使うのはもちろんのこと、目標を達成した学生たちは自信を持って就職活動に臨むことができるのです。
2.大学生の苦手ポイント
TOEICでは「仕事への応募」「会議の段取り」などのビジネスシーンが出題されますが、学生にとっては未経験です。まず語彙の概念や状況から学ばなくてはなりません。600点未満の学生は英語に接する機会も乏しく、英文法や長文読解を苦手とする傾向があります。スコアアップを目指すには、継続学習が不可欠です。成功体験を積み重ねて、モチベーションを高める必要があるのです。
3.授業での取り組みと効果
成功体験をさせるには?知識を定着させるには?意欲的に学ぶには?試行錯誤の末にたどり着いたのがアクティブラーニング型の授業です。説明は最小限にとどめ、ペアで教え合う知識のアウトプット活動を中心に据えた授業に切り換えました。
※2 「自分で説明すると忘れない」「考え方まで正解だとうれしい」と言いながら、学生たちは嬉々として学ぶように。その結果、語彙力も文法力もスコアも上昇したのです。この学習効果を再現したのが『TOEIC(R) L&R リーディング 解き方のスタートライン』(略して『解きスタ』)です。
4.本書の紹介
『解きスタ』の最大の特徴は、丁寧な解説とナビクイズです。解説が難しいのは苦手という初級者の声に応えるべく、基本となる文の組み立てから学び始めます。冒頭の「基本文法と品詞」は、文を舞台に例えた親しみやすく丁寧な解説となっております。
(本文p.8 ~9 より引用)
この後、名詞や動詞といった文法項目に沿って一つ一つ学ぶ章立てとなっております。大学の先生からは、次のような書評を頂きました。
TOEIC書籍で(1)初級者向けに、(2)実際に出題されるTOEIC問題を踏まえて、(3)あくまでも学校で習う文法のカテゴリーに基づいて学習させる本は貴重です。
本書は、TOEIC対策にとどまらず、しっかりとした文法理解の基礎固めにつながります。リメディアル科目の教科書としてもお使いいただけるのではないでしょうか。
次に、もう一つの特徴、ナビクイズの一例をご覧ください。
(本書 p.14より引用)
全ての問題に、自分で解説を完成させるナビクイズが併記されています。上記の品詞問題では、問題タイプの見分け方、空所に入る品詞の判断基準、品詞に対応する接尾辞の知識を学びます。目の前にある問題を解くだけではなく、解き方が分かるので、類型問題の正答率アップが期待されます。
一般的なTOEIC本の解説は別欄掲載となっています。しかし、どれだけの学習者がきちんと解説まで読むでしょうか。「なんとなく(B)の気がする」といったケースでも正解であれば、解説を読まずに先へ進んでしまうのです。たまたまの正解ゆえに、正しい知識を得る機会を逃すのは、なんとも残念なことです。初級者が欠けている知識を自力で埋めるのは容易ではないのです。本書では、「主語」「名詞」「形容詞」といった文法用語を1つずつ選びながら自分で完成させるので、知識の取りこぼしがありません。また、どのような道筋で正解にたどり着けるのか、またどこで間違ったのか、解説で確認しながら知識を積み重ねる学びが可能となります。
(本書 p.131より引用)
自分で成長できる喜びが内的動機付けとなって、学習意欲を高めていくことでしょう。実際にナビクイズを解いた学生たちからは、次のようなコメントが寄せられました。
・解く順序や答えの場所などが詳しく記述されており、分かりやすかったです。
・自分の苦手な部分がより分かった。
・答えに不安があっても、ナビクイズを解くことで根拠をしっかり見つけることができた。
・以前よりもあきらめずに考える力が身に付いたのと、英語を楽しいと思えるようになった。
・頭の中でナビクイズのように順序立てて考えられるようになったらいいなあと思った。
『解きスタ』を一通り終えた後には、次のような実践的練習をすれば、知識の定着率がさらに高まります。
・語注を外して、もう一度解かせる
・文法項目別ではなく、本書全体から任意に選んだ問題でもう一度ナビクイズを解かせる
・ナビクイズを外し、正解に至る道筋を自分で説明させる
本書をベースに、考えるプロセスと知識のアウトプット活動を授業に取り入れてみてください。
受動的になりがちなTOEIC授業が活発になるだけではなく、より高い学習効果が期待できます。
5.さらなるスコアアップを目指して
『解きスタ』に続いて、2021年秋には『TOEIC(R) L&R リスニング 解き方のスタートライン』(略して『解きリス』)が発売されます。
TOEICの語彙や書き取り練習で基礎的なリスニング力を養うと同時に、ナビクイズで正しい解き方が身に付く、まさにリスニングのスタートラインに立っている学習者向け教材です。
(『TOEIC® L&R リスニング 解き方のスタートライン』より引用)
『解きスタ』と『解きリス』をセットで学べば、リスニング力とリーディング力をバランスよく伸ばせます。基礎英語力アップとTOEICのスコアアップの両方に適した2冊です。ぜひご指導にご活用ください。今回は大学での教材指導例と合わせて本書をご紹介いたしましたが、もちろん独習用としてもご利用いただけます。
6.猛牛チャンネルの動画
TOEIC® L&R テストでは、どのように問題を解けばいいのか? 分かりやすいTOEIC解説で評判の猛牛チャンネルにて、本書を使った解き方の動画が紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=I1B898VFPxg
ぜひこちらもご参考になさってください。
※1 「就活サポートサイト」https://www.iibc-global.org/toeic/special/job.html
※2 『アクティブラーニング入門』.小林昭文.産業能率大学出版部.
『アクティブラーニング入門2』.小林昭文.産業能率大学出版部.
中村信子先生のプロフィール
広島大学学校教育学部卒。上智大学大学院博士課程満期退学。日本大学・東京家政大学・東洋英和女学院大学非常勤講師。言語学修士、中・高専修英語教員免許所得。TOEIC L&R テスト990点所得。
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