塚田幸光(『TOEIC® L&R テスト 英文読解力のスタートライン』共著者)
1.カタマリで読む=息継ぎする
英文の読み方の基本とは、何でしょうか。
もちろんS+Vなどの文構造が分かって、文法も分かって、単語も分かればパーフェクト。ですが、現実はそんなに甘くないですよね。一文が長くなるにつれて、徐々に息苦しくなって、長文全体ともなるともう息が続かない。そんな経験をした方は多いと思います。英文の理解で大事なのは、まず「意味のカタマリ」を捉えることです。そして、短文を理解する際には、スラッシュ・リーディングが役に立ちます。
Mayer Brothers | offers | / the fullest range of garment cleaning / in town. |
S | V | O |
どこでもスラッシュするのはダメ。S+V(SがVする)の主述関係や、名詞をカタマリで捉えましょう。特に名詞(cleaning)のキャッチは大事! 上記の赤字部分だけを見れば、「Mayer Brothersがクリーニング(サービス)を提供している」と分かりますね。スラッシュは「息継ぎ」の目安です。最初のトレーニングでは、スラッシュは多めになってしまうかもしれません。ですが、慣れてくると、短文ならスラッシュなしで読み切る(泳ぎ切る)ことも可能です。左から右に、「名詞」をキャッチするように読むのがポイントです。
2.スキーマ/パターンから内容を予測する
スラッシュ・リーディングは、「意味のカタマリ」をパッと捉え、一文を早く読むための技術です。ですが、難点もあります。この読み方は、一文が短い場合や、時間が沢山ある場合には有効なのですが、TOEICテストのパート7のように、短時間で大量の英文を読み、設問を解く実践テストには不向きです。加えて、一文にばかり目が行ってしまうので、文書全体の主題を見失う恐れもあります。木を見て森を見ず、というアレです。予習や復習では効果絶大な方法でも、スピードが必要となると話は別。では、どうすればいいでしょうか。
ここで、スキーマの出番です。「スキーマ」とは、読み手の持つ「情報や知識」のことで、簡単に言えば「形式的なパターン」のことです。例えば、「広告(advertisement)」の文書を読むとき、みなさんはどうしますか。精神を集中し、まっさらな状態で、英文と向き合う、とかは論外です。最初からスラッシュして、一文ごとに対処するのもダメ。どちらも時間が掛かりすぎます。ならば、ここで発想を変えてみましょう。「広告」の内容があらかじめ分かっていれば、文書を読むのは簡単ですね。最初にAが書かれて、次にBが来て、最後はC、という具合に。スキーマは、この「A⇒B⇒C」という展開のことなんです。
「広告」は、《①商品・サービス・求人案内⇒②内容説明⇒追加情報》というスキーマ/パターンで文書が展開します。冒頭に大きな文字で「見出し」があるのも特徴。例えば、レストランの新装開店の広告ならば、「見出し」にはレストランの店名が書かれ、本文の冒頭では新装開店の案内などが示されます(①)。そして中盤では、メニューやサービスが説明され(②)、最後にサービスの特典や例外などの追加情報が書かれます。
スキーマ/パターンは一定なので、多少単語が変わっても大筋は変わりません。例えば、「広告」のバリエーション「求人」の場合でも、《①求人案内⇒②内容説明⇒追加情報》という流れなので、最初の「見出し」でJob Opening(求人)とあれば、それ以下の予測は簡単です。本文冒頭では会社名や募集する職種などが書かれ(①)、次に仕事内容の説明があり(②)、最後に採用の条件や注意点が述べられます(③)。スキーマ/パターンを知っていれば、文書を読む前に「全体」の流れが予想できるのです。このように、スキーマから文書の内容を予測する読み方を「トップダウン処理」と言います。
3.トップダウン&ボトムアップ処理
トップダウン処理がスキーマ/パターンから内容を予測する方法であるのに対し、単語やフレーズをつなげて、語彙レベルで内容を把握する方法を「ボトムアップ処理」と言います。例えば、文書を見て、単語やフレーズがパッと目に飛び込んできて、何についての文書かイメージできた!という経験も少なからずあると思います。それはまさに、語彙という部分から「全体」をイメージするボトムアップ処理です。
実際に、英文を使って、トップダウン&ボトムアップ処理を試してみましょう。3つのブロックにはフキダシを付けています。それぞれがスキーマの《①〜③》です(トップダウン処理)。青字はボトムアップ処理に必要な語彙です。
Mayer Brothers Dry Cleaning Mayer Brothers offers the fullest range of garment cleaning in town. Our competitively-priced services include: |
スキーマ①
「商品・サービス案内」 |
・1-Hour express cleaning ・Cleaning of large blankets and comforters ・11 P.M. late opening on Monday-Thursday ・Ironing included in full cleaning packages ・And from May, a clothing repair service for rips and holes |
スキーマ②
「内容説明」 |
When you join our customer reward program and bring five garments or more at one time, Mayer Brothers will drop off the cleaned items at your door – free of charge! |
スキーマ③
「追加情報」 |
まず、トップダウン処理を試してみましょう。「見出し」はDry Cleaningですね。本文は、《①商品・サービス案内⇒②内容説明⇒③追加情報》というスキーマを意識しながら、ザッと文書をチェックしましょう。
《広告スキーマ》
【トップダウン処理】=スキーマ/パターンで先を予測! 広告[見出し] [本文] 1.商品・サービス案内=クリーニングサービス 2.内容説明⇒5つのサービス項目 3.追加情報⇒追加サービス(無料もあり) |
上記のトップダウン処理に対し、語彙レベルから見るボトムアップはどうでしょうか。青字の語彙(部分)を繋げて見ると、クリーニングサービスの「全体」が見えてきますね。
【ボトムアップ処理】=語彙をつなげて全体をイメージ 広告[見出し] Dry Cleaning [本文] 1. garment cleaning 2. express cleaning, cleaning of~, late opening, Ironing, clothing repair service 3. reward program, free of charge |
TOEICテストのパート7では、文書のジャンルが決まっています。「メール」「広告」「通知」等々。そして、文書ジャンルが一定であれば、そのスキーマも一定です。ならば、この方法を使わない手はありません。
まずは、スラッシュ・リーディングで、「意味のカタマリ」をつかむことから始めましょう。そして、スキーマで「全体」を捉え、語彙という「部分」から内容を理解することで、リーディング力は確実にアップします。正攻法の技術で、底力を上げてくださいね。
塚田幸光先生のプロフィール
関西学院大学教授。ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員(2015-16)。TOEICテストやビジネス英語、教養英語に関して、独自の視点から指導を行なう。TOEICテストでは、基礎力を最大化する方法に関心がある。主な著書に『はじめてのTOEIC L&Rテスト 全パート総合対策』(アスク出版)、『TOEICテスト 全パート単語対策』(アスク出版)、共著に『TOEIC L&Rテスト 超即効スコアUPテクニック114』(マガジンハウス)他多数。
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